2010年12月29日
ベートーヴェン:ピアノソナタ第30番/第31番/第32番
ピアノ:ルドルフ・ゼルキン
CD:ユニバーサル ミュージック(ドイツ・グラモフォン) UCCG-2043
人類が到達し得た、これらの最高の曲を、ピアニストとして円熟の境に達していたゼルキンが演奏するというまたとないチャンスを、我々リスナーは現在享受することができるのだ。ゼルキンの演奏は、格調が高く、研ぎ澄まされているのではあるが、その一方では何となく温かい人間味も聴き取れ、全体の形式美は考えうる最高のレベルに達している。ピアノ演奏への集中力とベートーヴェンに対する敬愛の念は極限に達し、その姿勢は聴くものを感動させずにおかない。ベートーヴェンがこれらの曲に込めた祈りみたいなメッセージを、ゼルキンはあたかも一つ一つ紐解こうとしているかのようだ。その音楽への奉仕の姿勢は、リスナーにとっては何事にも代えがたい宝物のように感じられる。