クラシック ピアニスト


バックナンバー 2010年 11月

2010年11月14日

アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ(1920年―1995年)  出身国:イタリア


~オールショパンリサイタル 1962年 トリノ~

ショパン:アンダンテスピアナーと大ポロネーズ
     バラード第1番
     スケルッツオ第1番
     マズルカop68/マズルカop30/マズルカop3
     子守唄op57
     ワルツop34/ワルツop69/ワルツ(遺作)
     幻想曲

ピアノ:アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ

CD:Music and Arts Programs of America  CD 924

 それにしても、ミケランジェリのピアノはなんと凄いことか。あたりの空気がぴんと張り詰めて、透明で整然とした佇まいのピアノの音がリスニングルームいっぱいに鳴り響く。ピアノの音そのものが輝き、ミケランジェリはあたかもそれ以外は聴いてほしくないとでもいっているかのようだ。テンポルバートも最小限に抑えた奏法である。そのことがかえってリスナーの心情に、ショパンの思いをストレートに伝えてくれる。もう二度とミケランジェリのようなピアノの音を表現できるピアニストは現れないのでは、ふとそんな思いにとらわれるほどスケールの大きなそして存在感あるピアニストであったことをこのCDは教えてくれるているようだ。

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2010年11月14日

アルトゥール・シュナーベル(1882年―1951年)  出身国:オーストリア


ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番“皇帝”
        ピアノ協奏曲第2番

ピアノ:アルトゥール・シュナーベル

指揮:アルセオ・ガリエラ(第5番)
   イッセイ・ドブローウェン(第2番)

管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団

CD:TESTAMENT(EMIレコード)SBT1020

 このCDはベートーヴェンのピアノ協奏曲の第5番と第2番の2曲を収めたCDで、第5番が1947年5月、第2番が1946年6月と今から60年以上も前の録音ではあるが、音質は意外に良好で、十分鑑賞に耐え得るレベルに達している。“皇帝”を弾くアルトゥール・シュナーベルのピアノ演奏は丁度、大きな教会の聖堂の下から上を見上げたような壮大な構成力を持っており、高く聳え立つ建築物の荘厳な趣きが、聴く者を圧倒する。それでいてピアノの音は流麗な流れを伴っており、音だけを聴くと一瞬、女流ピアニストのような繊細な感覚がまた堪らない。“皇帝”をこのような構成力と魅力的な音質で聴くことは、数あるCDの中でもあまり例を見ないほどの極上の仕上がりになっている。このCDの“皇帝”はベートーヴェンが描こうとした世界をほぼ完全に再現できており、是非とも一度は聴いてほしいCDではある。

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2010年11月14日

スヴャトスラフ・リヒテル (1915年―1997年)  出身国:ロシア


シューベルト:ピアノソナタ第13番/第14番<東京公演:ライブ録音>

ピアノ:スヴャトスラフ・リヒテル

CD:ビクター音楽産業 VDC-1070

 ピアノの巨人 スヴャトスラフ・リヒテル(1915年―1997年)を聴くたびに、私はその類まれな強靭な精神力にひれ伏すしかない。何回聴いてもその確信に満ちたピアノを叩くタッチは、「あ!これが本来のピアノの持つ無限の力を引き出すことができる、リヒテルにしかできない技なのだ」と思わざるをえない。リヒテルのピアノ演奏を聴いた後、他のピアニストの演奏を聴いても、何かひ弱で、ピアノの持つ可能性の一部しか表現し切れてないような感じがして、もどかしい。とは言っても、リヒテルはただピアノの強い面ばかりを強調するのではなく、繊細極まりない微妙なニュアンスの表現にも長けていて(今回のCDのシューベルトのピアノソナタ第13番がそのいい例)、表現の幅の広さにも圧倒される思いがする。つまり、リヒテルのピアノ演奏は、いつも全力投球で、一部の隙もないところが長所であり、正統派ピアニストの面目躍如といったところなのだ。

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2010年11月13日

内田光子(1948年生まれ)  出身国:日本


モーツアルト:ピアノソナタ第15番/ロンド イ短調/ピアノソナタ第18番

ピアノ:内田光子

CD:西独フィリップス 412?122

 内田光子の演奏するこのモーツアルトのCDを聴くと、完璧なほどなその構成美に圧倒される思いがする。これをみても、ちょっと普通の日本人の感覚を超えているということがいえるのではないか。ちょうど西欧の彫刻を音で表現しているかのようだ。これならヨーロッパで内田光子が高い評価を受けたことに合点がいく。聴き進むとなんだかギーゼキングのピアノの響きがする。絶対にリーリー・クラウスでもないし、ピリスでもない。ギーゼキングは新即物主義の旗手として見られていた。これは主観をなるべく排除し、楽譜に忠実に演奏するといった意味であろう。内田光子のモーツアルトを聴くとギーゼキング以上の新即物主義の演奏家ではないか、との思いを抱かざるを得ない。いずれにせよ、その完成度の高い演奏の質は特筆に価する。

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2010年11月13日

アルフレート・ブレンデル(1931年生まれ)  出身国:チェコ


シューベルト:即興曲Op.90/Op.142

ピアノ:アルフレート・ブレンデル

CD:西独フィリップス 411 040?2  
 
 シューベルトの即興曲集には昔から名演のレコード/CDが多数あり、件を競ってきた。古くはギーゼキング、リリー・クラウスなどの名盤を思い浮かべることができる。このブレンデルの即興曲集もこれらの名盤と比べ、少しの遜色もなく、肩を並べる内容となっている。流れるような指使い、強靭なタッチ、そして圧倒的なスピード感、どれをとっても超一流の技量であることが、聴いて取れる。そのため、聴いてい飽きが来ないのだ。次のフレーズはどう弾くのか、思わず引き込まれてしまう。あくまで正攻法の弾き方で、奇はてらわない。 

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2010年11月13日

イヴ・ナット(1890年―1956年)  出身国:フランス


シューマン:ウィーンの謝肉祭の道化/子供の情景/幻想小曲集/ピアノ協奏曲
      蝶々/アラベスク/子供の情景/クライスレリアーナ/3つのロマンツェ
      幻想曲/フモレスケ/交響的練習曲
      トッカータ/幻想小曲集/ノヴェレッテン

ピアノ:イヴ・ナット

指揮:ウジェーヌ・ビゴー
管弦楽:Orchestre Symphonique

CD:仏EMI CZS 7 671412

 イヴ・ナットは、フランスのピアニストではあるが、シューマンやベートーヴェンなどのドイツ人作曲家の作品を弾かせると、ドイツ人以上の深みのある、構成美が際立って優れたピアノ演奏を聴かせる。このアルバムでもシューマン独特のロマンの色濃い特徴を押さえて、実に魅力ある曲に仕上げている。中でもピアニストの力の差がはっきりと分る「ピアノ協奏曲」「クライスレリアーナ」「幻想曲」「フモレスケ」「交響的練習曲」の5曲は、これまで発売されたCDの中でも1、2を争うほどの出来栄えだと私には思われる。

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2010年11月13日

ウィリアム・カペル(1922年―1953年)  出身国:アメリカ


ハチャトリアン:ピアノ協奏曲(クーセヴィツキー指揮ボストン交響楽団)他

ピアノ:ウィリアム・カペル

CD:BMGビクター BVCC5202

 ウィリアム・カペル は、わずか31歳で航空機事故で没した米国の天才ピアニスト。よく“才気走る”という言葉が使われるが、カペルはこの言葉にぴったりのピアニストであった。特にこのCDのハチャトリアンやプロコフィエフのピアノ協奏曲を弾かせたら、現在に至るまでカペルの右に出るものはおそらくいない。確信に満ちたタッチ、そして心の底から音楽が溢れてきて、こぼれだすとでも言ったらいいのであろうか。リストのメフィスト・ワルツ第1番もこのCDに収められているが、CDのタイトルの横には「夭折した鬼才、カペルの貴重な名演、待望のCD化。“メフィスト・ワルツ”は録音史上に残る極めつけの名演。」と書かれているが、実際に聴いてみるとこのことが決して誇張でないことが分かる。

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2010年11月13日

ウィルヘルム・バックハウス(1884年―1969年)  出身国:ドイツ


ブラームス:ピアノ協奏曲第2番
モーツアルト:ピアノ協奏曲第27番

ピアノ:ウィルヘルム・バックハウス

指揮:カール・ベーム

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

CD:DECCA 466 380‐2

 バックハウス のピアノ演奏は、伝統的なドイツピアノ音楽にしっかりと根付いて、安定感のある、どっしりとした構えがリスナーに圧倒的な印象を与える。若い頃は、卓越した技巧も加わり“鍵盤の獅子王”と呼ばれていたほどだ。ギーゼキング、ケンプそれにバックハウスを並べて聴くと、伝統的なドイツピアノ演奏という共通点以上に、もっと似通った何かが隠されているように思う。それは、ピアノに真摯に向き合い、あたかも聖職者が音楽の神にかしずいているかのように演奏し、その背後から我々リスナーがその演奏を聴いているように私には思える。そしていつも、その演奏空間にはピーンとした程よい緊張感の糸が張りめぐらされているかのごとくに・・・。

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2010年11月13日

イングリット・ヘブラー(1926年生まれ)  出身国:オーストリア


モーツアルト:ピアノソナタK330/K331/K333/K545

ピアノ:イングリット・ヘブラー

CD:日本グラモフォン 420 251-2

 モーツァルトのピアノソナタには名盤が数多くある。レコードの時代リリー・クラウス、ギーゼキング、CDのクララ・ハスキル、グレングールド、ピリスなどがその代表的な例である。それぞれ個性的なピアニストなので、いずれがいいかは、人それぞれの好みになろう。ただ、ヘブラーとグールドが両極端にあることだけは確かなことだ。グールドはあまりに自己中心的な解釈のため、ついていけない人も多い。それに対しヘブラーは万人の支持を得られるような名演である。ヘブラーのモーツァルトについていけない人はほとんどいない。それほど万人受けするにもかかわらず、ヘブラーがすごいのはモーツァルトの言いたいことをすべて楽譜から引き出していることだ。もし、モーツァルトがヘブラーの演奏を聴いたならば、自分が意図した以上に曲が仕上がっていることに驚くのではないか。ヘブラーのモーツァルトは天国的な音を響かせながら、一方では現代にマッチした何かが隠されている。このことがヘブラーをしてモーツァルト弾きの名手たらしめている所以であろう。

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2010年11月13日

リリー・クラウス(1903年―1986年)  出身国:ハンガリー


シューベルト:4つの即興曲op.90/142

ピアノ:リリー・クラウス

CD:キングレコード K32Y 199

 リリー・クラウスはレコード時代のモーツアルトのピアノソナタ全集でお馴染みの名ピアニストだ。音の1つ1つが表情を持ち、聴く者を引き付ける魅力を持っている。取り立てて華やかな演奏をするわけではないが、起伏の富んだ輝きを持つ軽やかなピアノタッチが特徴だ。このCDではシューベルトの4つの即興曲作品90/142を聴くことができる。録音状態が良く、現役盤でも通用しそう。このCDでもリリー・クラウスの持ち味が存分に発揮されている。程よい緊張感の中に、軽やかな旋律が流れるように弾かれていく。一見さらっとした感じがするが、単調ではなく、知らないうちに引き込まれるといった魅力を持つ。リリー・クラウス自体は第二次世界大戦で日本の捕虜になるという経験をした結果、残念ながら日本には良い感情を持ってはいなかったようだ。

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