クラシック ピアニスト


2010年12月31日

マルタ・アルゲリッチ(1941年生まれ)  出身国:アルゼンチン


シューマン:ピアノソナタ第2番

ピアノ:マルタ・アルゲリッチ

録音:1971年6月23日―25日 ミュンヘン

LP:ポリドール SE 7205

 リストのピアノソナタは、高度な技巧が欠かせない。そんな難曲を若き日のアルゲリッチが、楽々と弾きこなしていることが聴き取れる。そして、リスト特有の、激情から突如叙情的な雰囲気へと急展開する独特の構成を、実に鮮やか技法を駆使し表現していることに驚かされる。古今のリストのピアノソナタの録音の中でも、スケールの大きさと、その説得力ある演奏内容で、特筆されるべき録音だと言える。シューマンのピアノソナタ第2番は、伝統的な的なピアノソナタの雰囲気とシューマン独特のロマンの香りとが重なり合ったような、いかにもシューマンらしい曲だ。ここでもアルゲリッチの類稀な演奏技法が光を放っている。何か糸を一本ぴーんと張ったような緊張感が全体を覆い、それがシューマンのロマンの世界と微妙な調和を保っている。

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2010年12月29日

マウリツィオ・ポリーニ(1942年生まれ)  出身国:イタリア


リスト:ピアノソナタ ロ短調 他

ピアノ:マウリツィオ・ポリーニ

CD:ドイツグラモフォン POCG-20060

 このCDにおける名手(今や巨匠か)ポリーニの演奏は、このような特徴を持つリストのピアノソナタ ロ短調を、実にドラマチックに演奏しており、考えられる最高の演奏レベルに達していると実感できる。悠然と弾き切るかと思えば、突如悪魔のような顔を覗かせ、また、天上の音楽のように鍵盤が美しい音色を奏でる。正に、リストとポリーニとが一体化して、二人で聴くものに同時に激しく迫るという雰囲気が、全体を包み込んでいるのだ。さらに、このピアノソナタを一層印象深いものにしているのは、曲の最後部分であり、静かに余韻をたっぷりと含んだコーダは何か思わせぶりで、再び新しい音が聴こえてきそうな感じがしてしまうほど魅力的である。ポリーニの演奏もこの雰囲気を十全に表現することに成功している。録音は1989年6月、ミュンヘンとある。

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2010年12月29日

ルドルフ・ゼルキン(1903年―1991年)  出身国:チェコ


ベートーヴェン:ピアノソナタ第30番/第31番/第32番

ピアノ:ルドルフ・ゼルキン

CD:ユニバーサル ミュージック(ドイツ・グラモフォン) UCCG-2043

  人類が到達し得た、これらの最高の曲を、ピアニストとして円熟の境に達していたゼルキンが演奏するというまたとないチャンスを、我々リスナーは現在享受することができるのだ。ゼルキンの演奏は、格調が高く、研ぎ澄まされているのではあるが、その一方では何となく温かい人間味も聴き取れ、全体の形式美は考えうる最高のレベルに達している。ピアノ演奏への集中力とベートーヴェンに対する敬愛の念は極限に達し、その姿勢は聴くものを感動させずにおかない。ベートーヴェンがこれらの曲に込めた祈りみたいなメッセージを、ゼルキンはあたかも一つ一つ紐解こうとしているかのようだ。その音楽への奉仕の姿勢は、リスナーにとっては何事にも代えがたい宝物のように感じられる。

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2010年11月14日

アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ(1920年―1995年)  出身国:イタリア


~オールショパンリサイタル 1962年 トリノ~

ショパン:アンダンテスピアナーと大ポロネーズ
     バラード第1番
     スケルッツオ第1番
     マズルカop68/マズルカop30/マズルカop3
     子守唄op57
     ワルツop34/ワルツop69/ワルツ(遺作)
     幻想曲

ピアノ:アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ

CD:Music and Arts Programs of America  CD 924

 それにしても、ミケランジェリのピアノはなんと凄いことか。あたりの空気がぴんと張り詰めて、透明で整然とした佇まいのピアノの音がリスニングルームいっぱいに鳴り響く。ピアノの音そのものが輝き、ミケランジェリはあたかもそれ以外は聴いてほしくないとでもいっているかのようだ。テンポルバートも最小限に抑えた奏法である。そのことがかえってリスナーの心情に、ショパンの思いをストレートに伝えてくれる。もう二度とミケランジェリのようなピアノの音を表現できるピアニストは現れないのでは、ふとそんな思いにとらわれるほどスケールの大きなそして存在感あるピアニストであったことをこのCDは教えてくれるているようだ。

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2010年11月14日

アルトゥール・シュナーベル(1882年―1951年)  出身国:オーストリア


ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番“皇帝”
        ピアノ協奏曲第2番

ピアノ:アルトゥール・シュナーベル

指揮:アルセオ・ガリエラ(第5番)
   イッセイ・ドブローウェン(第2番)

管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団

CD:TESTAMENT(EMIレコード)SBT1020

 このCDはベートーヴェンのピアノ協奏曲の第5番と第2番の2曲を収めたCDで、第5番が1947年5月、第2番が1946年6月と今から60年以上も前の録音ではあるが、音質は意外に良好で、十分鑑賞に耐え得るレベルに達している。“皇帝”を弾くアルトゥール・シュナーベルのピアノ演奏は丁度、大きな教会の聖堂の下から上を見上げたような壮大な構成力を持っており、高く聳え立つ建築物の荘厳な趣きが、聴く者を圧倒する。それでいてピアノの音は流麗な流れを伴っており、音だけを聴くと一瞬、女流ピアニストのような繊細な感覚がまた堪らない。“皇帝”をこのような構成力と魅力的な音質で聴くことは、数あるCDの中でもあまり例を見ないほどの極上の仕上がりになっている。このCDの“皇帝”はベートーヴェンが描こうとした世界をほぼ完全に再現できており、是非とも一度は聴いてほしいCDではある。

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2010年11月14日

スヴャトスラフ・リヒテル (1915年―1997年)  出身国:ロシア


シューベルト:ピアノソナタ第13番/第14番<東京公演:ライブ録音>

ピアノ:スヴャトスラフ・リヒテル

CD:ビクター音楽産業 VDC-1070

 ピアノの巨人 スヴャトスラフ・リヒテル(1915年―1997年)を聴くたびに、私はその類まれな強靭な精神力にひれ伏すしかない。何回聴いてもその確信に満ちたピアノを叩くタッチは、「あ!これが本来のピアノの持つ無限の力を引き出すことができる、リヒテルにしかできない技なのだ」と思わざるをえない。リヒテルのピアノ演奏を聴いた後、他のピアニストの演奏を聴いても、何かひ弱で、ピアノの持つ可能性の一部しか表現し切れてないような感じがして、もどかしい。とは言っても、リヒテルはただピアノの強い面ばかりを強調するのではなく、繊細極まりない微妙なニュアンスの表現にも長けていて(今回のCDのシューベルトのピアノソナタ第13番がそのいい例)、表現の幅の広さにも圧倒される思いがする。つまり、リヒテルのピアノ演奏は、いつも全力投球で、一部の隙もないところが長所であり、正統派ピアニストの面目躍如といったところなのだ。

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2010年11月13日

内田光子(1948年生まれ)  出身国:日本


モーツアルト:ピアノソナタ第15番/ロンド イ短調/ピアノソナタ第18番

ピアノ:内田光子

CD:西独フィリップス 412?122

 内田光子の演奏するこのモーツアルトのCDを聴くと、完璧なほどなその構成美に圧倒される思いがする。これをみても、ちょっと普通の日本人の感覚を超えているということがいえるのではないか。ちょうど西欧の彫刻を音で表現しているかのようだ。これならヨーロッパで内田光子が高い評価を受けたことに合点がいく。聴き進むとなんだかギーゼキングのピアノの響きがする。絶対にリーリー・クラウスでもないし、ピリスでもない。ギーゼキングは新即物主義の旗手として見られていた。これは主観をなるべく排除し、楽譜に忠実に演奏するといった意味であろう。内田光子のモーツアルトを聴くとギーゼキング以上の新即物主義の演奏家ではないか、との思いを抱かざるを得ない。いずれにせよ、その完成度の高い演奏の質は特筆に価する。

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2010年11月13日

アルフレート・ブレンデル(1931年生まれ)  出身国:チェコ


シューベルト:即興曲Op.90/Op.142

ピアノ:アルフレート・ブレンデル

CD:西独フィリップス 411 040?2  
 
 シューベルトの即興曲集には昔から名演のレコード/CDが多数あり、件を競ってきた。古くはギーゼキング、リリー・クラウスなどの名盤を思い浮かべることができる。このブレンデルの即興曲集もこれらの名盤と比べ、少しの遜色もなく、肩を並べる内容となっている。流れるような指使い、強靭なタッチ、そして圧倒的なスピード感、どれをとっても超一流の技量であることが、聴いて取れる。そのため、聴いてい飽きが来ないのだ。次のフレーズはどう弾くのか、思わず引き込まれてしまう。あくまで正攻法の弾き方で、奇はてらわない。 

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2010年11月13日

イヴ・ナット(1890年―1956年)  出身国:フランス


シューマン:ウィーンの謝肉祭の道化/子供の情景/幻想小曲集/ピアノ協奏曲
      蝶々/アラベスク/子供の情景/クライスレリアーナ/3つのロマンツェ
      幻想曲/フモレスケ/交響的練習曲
      トッカータ/幻想小曲集/ノヴェレッテン

ピアノ:イヴ・ナット

指揮:ウジェーヌ・ビゴー
管弦楽:Orchestre Symphonique

CD:仏EMI CZS 7 671412

 イヴ・ナットは、フランスのピアニストではあるが、シューマンやベートーヴェンなどのドイツ人作曲家の作品を弾かせると、ドイツ人以上の深みのある、構成美が際立って優れたピアノ演奏を聴かせる。このアルバムでもシューマン独特のロマンの色濃い特徴を押さえて、実に魅力ある曲に仕上げている。中でもピアニストの力の差がはっきりと分る「ピアノ協奏曲」「クライスレリアーナ」「幻想曲」「フモレスケ」「交響的練習曲」の5曲は、これまで発売されたCDの中でも1、2を争うほどの出来栄えだと私には思われる。

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2010年11月13日

ウィリアム・カペル(1922年―1953年)  出身国:アメリカ


ハチャトリアン:ピアノ協奏曲(クーセヴィツキー指揮ボストン交響楽団)他

ピアノ:ウィリアム・カペル

CD:BMGビクター BVCC5202

 ウィリアム・カペル は、わずか31歳で航空機事故で没した米国の天才ピアニスト。よく“才気走る”という言葉が使われるが、カペルはこの言葉にぴったりのピアニストであった。特にこのCDのハチャトリアンやプロコフィエフのピアノ協奏曲を弾かせたら、現在に至るまでカペルの右に出るものはおそらくいない。確信に満ちたタッチ、そして心の底から音楽が溢れてきて、こぼれだすとでも言ったらいいのであろうか。リストのメフィスト・ワルツ第1番もこのCDに収められているが、CDのタイトルの横には「夭折した鬼才、カペルの貴重な名演、待望のCD化。“メフィスト・ワルツ”は録音史上に残る極めつけの名演。」と書かれているが、実際に聴いてみるとこのことが決して誇張でないことが分かる。

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