クラシック ピアニスト


2010年11月13日

ウィルヘルム・バックハウス(1884年―1969年)  出身国:ドイツ


ブラームス:ピアノ協奏曲第2番
モーツアルト:ピアノ協奏曲第27番

ピアノ:ウィルヘルム・バックハウス

指揮:カール・ベーム

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

CD:DECCA 466 380‐2

 バックハウス のピアノ演奏は、伝統的なドイツピアノ音楽にしっかりと根付いて、安定感のある、どっしりとした構えがリスナーに圧倒的な印象を与える。若い頃は、卓越した技巧も加わり“鍵盤の獅子王”と呼ばれていたほどだ。ギーゼキング、ケンプそれにバックハウスを並べて聴くと、伝統的なドイツピアノ演奏という共通点以上に、もっと似通った何かが隠されているように思う。それは、ピアノに真摯に向き合い、あたかも聖職者が音楽の神にかしずいているかのように演奏し、その背後から我々リスナーがその演奏を聴いているように私には思える。そしていつも、その演奏空間にはピーンとした程よい緊張感の糸が張りめぐらされているかのごとくに・・・。

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2010年11月13日

イングリット・ヘブラー(1926年生まれ)  出身国:オーストリア


モーツアルト:ピアノソナタK330/K331/K333/K545

ピアノ:イングリット・ヘブラー

CD:日本グラモフォン 420 251-2

 モーツァルトのピアノソナタには名盤が数多くある。レコードの時代リリー・クラウス、ギーゼキング、CDのクララ・ハスキル、グレングールド、ピリスなどがその代表的な例である。それぞれ個性的なピアニストなので、いずれがいいかは、人それぞれの好みになろう。ただ、ヘブラーとグールドが両極端にあることだけは確かなことだ。グールドはあまりに自己中心的な解釈のため、ついていけない人も多い。それに対しヘブラーは万人の支持を得られるような名演である。ヘブラーのモーツァルトについていけない人はほとんどいない。それほど万人受けするにもかかわらず、ヘブラーがすごいのはモーツァルトの言いたいことをすべて楽譜から引き出していることだ。もし、モーツァルトがヘブラーの演奏を聴いたならば、自分が意図した以上に曲が仕上がっていることに驚くのではないか。ヘブラーのモーツァルトは天国的な音を響かせながら、一方では現代にマッチした何かが隠されている。このことがヘブラーをしてモーツァルト弾きの名手たらしめている所以であろう。

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2010年11月13日

リリー・クラウス(1903年―1986年)  出身国:ハンガリー


シューベルト:4つの即興曲op.90/142

ピアノ:リリー・クラウス

CD:キングレコード K32Y 199

 リリー・クラウスはレコード時代のモーツアルトのピアノソナタ全集でお馴染みの名ピアニストだ。音の1つ1つが表情を持ち、聴く者を引き付ける魅力を持っている。取り立てて華やかな演奏をするわけではないが、起伏の富んだ輝きを持つ軽やかなピアノタッチが特徴だ。このCDではシューベルトの4つの即興曲作品90/142を聴くことができる。録音状態が良く、現役盤でも通用しそう。このCDでもリリー・クラウスの持ち味が存分に発揮されている。程よい緊張感の中に、軽やかな旋律が流れるように弾かれていく。一見さらっとした感じがするが、単調ではなく、知らないうちに引き込まれるといった魅力を持つ。リリー・クラウス自体は第二次世界大戦で日本の捕虜になるという経験をした結果、残念ながら日本には良い感情を持ってはいなかったようだ。

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2010年11月13日

ハリーナ・チェルニー=ステファンスカ  出身国:ポーランド


ショパン:夜想曲/幻想即興曲/練習曲/ポロネーズ/バラード

ピアノ:ハリーナ・チェルニー=ステファンスカ

CD:RVC R32C?1012

 ハリーナ・チェルニー=ステファンスカはポーランド出身で、その演奏するショパンのピアノ曲は、他の追随を許さない気品というか威厳を持ったものに昇華されている。一つの細い、しかし強靭な糸の上を、あたかも宝石を転がすような繊細でしかも華やかさを込めた演奏とでも言ったらよいのであろうか、一度聴いたら忘れられない印象を聴くものに与えずにはおかない。優れた演奏技術を前面に出すのではなく、表面はあくまでもきらびやかな感覚なので、いつ聴いても耳に心地よい。決して感情を表に出すことはないのにもかかわらず、聴くものにショパンの感情を深く刻み付ける、類まれなピアニストであった。

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2010年11月13日

アルフレッド・コルトー(1877年―1962年)  出身国:スイス


ショパン:ピアノ曲集

ピアノ:アルフレッド・コルトー

CD:独EMI CZS 767359 2

 コルトーは時代を越えて、今の我々の中にもすんなり入ってこれる魔力のようなものを持っている偉大なピアニストだ。普通だと時代が変われば、その当時巨匠と言われた演奏家でも、今の我々の感覚とはだいぶ違うなとの思いにとらわれることがしばしばだ。ところがコルトーだけは、例え雨降りのSP盤の録音でも聴いていてもあまり苦にならないのは不思議だ。これがほかの演奏家であればとても耐え切れないだろう。コルトーとほかのピアニストの違いって何なんだろう。その答えの一つは、音に色彩があるということだ。聴けば聴くほどモノトーンではなくカラフルなピアノの音色がするのである。完全にショパンを自分のものにして、聴かせどころをよくつかみ、どうだといわんばかりに弾き切る。それがいやみがなく、自然体であることがすごい。これからのデジタル時代でもコルトーの録音は生き続けるであろう。

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2010年11月13日

ゲザ・アンダ(1921年―1976年)  出身国:ハンガリー


モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番/第21番

ピアノ/指揮:ゲザ・アンダ

管弦楽:ウィーン交響楽団

 ゲザ・アンダはもう30年以上も前に亡くなったピアニストにもかかわらず、その録音は今でも輝きを失わず、多くのリスナーによって愛されている。また、現在、ゲザ・アンダ国際コンクールが開催されており、その名は過去のものにはなっていない。このような例は意外に少ないことに気付かされる。それと、映画「みじかくも美しく燃え」のサウンドトラックに、ゲザ・アンダとモーツァルテウム・カメラータ・ザルツブルグとによるモーツアルトのピアノ協奏曲第21番が使われたことも、ゲザ・アンダの名前を一層ポピュラーなものにしているのではなかろうか。このCDはゲザ・アンダがこの世を去る3年前に録音されたものだ。最晩年に録音されたためか、内容の深い名演となっており、ウィーン交響楽団のいつも以上の熱演振りも聴いていて心地いい。

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2010年11月13日

マリア・ジョアオ・ピリス(1944生まれ)  出身国:ポルトガル


モーツアルト:ピアノソナタ全曲

ピアノ:マリア・ジョアオ・ピリス

CD:日本ポリドール POCG 1480/5

 モーツアルトのピアノソナタ全集はリリー・クラウス、ワルター・ギーゼキング、グレングールド、イングリッド・ヘブラーなど、過去から多くの名盤に恵まれている。言わばショパン、ベートーベンと並びピアニストの登竜門的位置づけとなっている。これらの中でマリア・ジョアオ・ピリスのモーツアルト/ピアノソナタ全集は、十分にその存在意義持ち、さらに透明感ある音色、ゆったりとしたテンポ、そして何よりも説得力ある語り口、どれもとっても一級品であることは間違いない。特に名盤が多い中でピリスの最大の特徴は、現代人として最も共感できるモーツァルトに仕上がっていることであろう。クラウスやギーゼキングのように大時代がかっておらず、また、グールドのようなモダニズムとも違う。我々が日常過ごしている空間に入り込んでもなんら違和感を感じないモーツァルトとなっている。

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2010年11月13日

クララ・ハスキル(1895年―1960年)  出身国:ルーマニア


モーツアルト:ピアノ協奏曲第20番/第13番

ピアノ:クララ・ハスキル

演奏:フェレンツ・フリッチャイ指揮/リアス交響楽団
   ルドルフ・パウムガルトナー指揮/ルツェルン・フェスティバル管弦楽団

CD:独グラモフォン 437 676-2

 クララ・ハスキルはモーツアルトを弾くために生まれてきたようなピアニストである。よく“天上の音楽”といったようなことが言われるが、このCDのクララ・ハスキルを聴くと、正に“天上の音楽”そのものといったことを思い浮かべてしまう。陰影のある、それでいてあまり深刻ぶらない弾きかたとでもいえようか。油絵の世界というより水彩画の世界により近い感じがする。いつの間にか、現実にはありえないような、空想の世界へと聴衆を導いてしまう、稀有ななピアニストであった。フリッチャイ、パウムガルトナーの両指揮者も、ハスキルの特徴を最大限に引き出している。

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2010年11月13日

エミール・ギレリス(1916年―1985年)  出身国:ロシア


チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番/ピアノソナタ

ピアノ:エミール・ギレリス
   
指揮:エフゲニー・ムラビンスキー

管弦楽:レニングラード・フィルハモニー管弦楽団

CD:Russian Disc RD CD 11 170

 このCDは1971年3月にモスクアで行われた実況録音盤である。ギレリスのピアノは情緒に流されることなく、ピンと筋が通った演奏である。同時に柔らかな雰囲気も十分に醸し出すことができ、やはり超一流のピアニストであったことを裏付けるCDとなっている。録音は最近のCDと比べると聴き劣りはするが、30年以上前のライブ録音にしては良く録れている。ムラビンスキーの指揮はいつもと変わらず威風堂々としている。このCDのギレリス、ムラビンスキー、レニングラードフィルの3者の演奏は、旧ソ連最高の組み合わせといってもいいであろう。

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2010年11月13日

田中希代子(1932年―1996年)  出身国:日本


ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番
ショパン:ピアノ協奏曲第1番
モーツアルト:ピアノソナタ第11番 他

ピアノ:田中希代子

CD:キングレコード KICC576

 田中希代子は、1952年(昭和27年)にジュネーヴ国際コンクールで最高位受賞(イングリット・ヘブラーと1位なしの2位を分け合う)、翌1952年(昭和28年)ロン=ティボー国際コンクールで4位入賞、さらに1955年(昭和30年)にはショパン国際コンクールで10位入賞を果たした。つまり、日本人が国際コンクールへ参加すること自体が珍しかった時代に、4年間で3つの国際コンクールに入賞するという離れ業をやってのけたのである。このCD2枚には、ショパン国際コンクールでのライヴ録音によるショパンのピアノ協奏曲、NHK定期演奏会でのベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番のライブ録音、さらにキングレコード・スタジオにおけるモーツァルトのピアノソナタ第11番などが収められている。ベートーヴェンのピアノ協奏曲を聴くとその凛とした演奏姿勢には脱帽させられる。今こんな毅然としたベートヴェンを弾けるピアニストはいるのか。モーツァルトのピアノソナタを聴くと鮮やかなテクニックを見事に聴くことができる。こんなに流れるように正確で、しかも情感を持った演奏はめったに聴けるものではない。

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