クラシック音楽 ブックレビュー


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2014年7月22日

◇「作曲家ダイジェスト ラフマニノフ」(芝辻純子・堀内みさ著/学研パブリッシング)


書名:作曲家ダイジェスト ラフマニノフ (CD付)

著者:芝辻純子・堀内みさ

発行:学研パブリッシング

目次:<作曲家を知る>
   
   1.幼少期のラフマニノフ
   2.ラフマニノフが学んだ先生と学校
   3.音楽家ラフマニノフ
   4.ラフマニノフの交友録
   5.はじめての挫折
   6.ロシア音楽の系譜
   7.ラフマニノフの性格と結婚
   8.当時のロシアと欧州情勢
   9.“指揮者”ラフマニノフと演奏活動
   10.隠れた名曲
   11.アメリカへの移住と望郷

   番外編1.ラフマニノフ作品と映画
   番外編2.名曲名盤案内
   番外編3.ラフマニノフゆかりの地

  <名曲案内>
  
  1.ピアノ協奏曲第2番
  2.パガニーニの主題による狂詩曲
  3.12の歌
  4.幻想的小品集
  5.ピアノ協奏曲第1番
  6.歌劇「アレコ」
  7.組曲第1番「幻想的絵画」
  8.楽興の時
  9.14の歌曲
  10.ピアノ三重奏曲第2番「偉大な芸術家の思い出」
   11.組曲第2番
   12.チェロ・ソナタ
   13.ショパンの主題による変奏曲
   14.10の前奏曲/13の前奏曲
   15.12の歌
   16.交響曲第2番
   17.交響詩「死の鳥」
   18.ピアノ協奏曲第3番
   19.合唱交響曲「鐘」
   20.ピアノ・ソナタ第2番
   21.無伴奏合唱曲「晩とう」
   22.練習曲集「音の絵」
   23.コレルリの主題による変奏曲
   24.ピアノ協奏曲第4番
   25.交響曲第3番
   26.交響的舞曲

 ラフマニノフゆかりの街MAP
 ラフマニノフ関連年表
 付録CD収録曲一覧

 「作曲家ダイジェスト ラフマニノフ(CD付)」(芝辻純子・堀内みさ著)は、ラフマニノフの生涯とその作品を、まずは一通り知りたい人達にとっては、格好の書と言える。それは、簡潔な文章(1テーマについて見開き2ページ)で綴られているうえ、豊富な写真が掲載されているので、ラフマニノフという作曲者の実像がつかみやすい点にある。<作曲家を知る>と<名曲案内>の各項目が交互に掲載されており、初心者が読み易く単調に陥らないような配慮もされている。ただ、後で資料的に使う時には、それぞれ別個に掲載された方が便利かもしれない。読みやすい工夫はほかにもある。「ラフマニノフ作品と映画」「名曲名盤案内」「ラフマニノフゆかりの地」からなる3つの番外編は、ラフマニノフの姿を印象付けるための手助けとなろう。このほか「ラフマニノフゆかりの街MAP」「ラフマニノフ関連年表」も掲載されている。さらに、代表作27曲の一部が収められているCDが付いているので、知らない曲があれば直ぐにでも聴くことができるので便利だ。

 ラフマニノフの音楽は、昔懐かしい何かを感じさせてくれる。全ての作品に歌のメロディーが流れているようでもあり、メランコリックな感触も素晴らしい。その昔、私は、ドイツ・オーストリア系の作曲家の作品をもっぱら愛好していた。それ以外はというとせいぜいショパンまでで、ラフマニノフの作品は、ほとんどと言っていいほど聴かなかった。ただ、「ヴォカリーズ」と「パガニーニの主題による狂詩曲」第18変奏曲については、何と美しい曲なのだろうという印象があり、愛聴していたが、当時、それ以上にラフマニノフの音楽を系統だって聴くことはなかった。

 ところが、ある時何気なく、ラフマニノフの交響曲第2番を聴いたとき、正直、こんなに心を打つ交響曲は滅多にあるものではないと驚いたことがあった。この交響曲第2番は、昔は、縮小版によって演奏されるのが通常であったそうだが、初めてアンドレ・プレヴィンが全曲版を指揮し、その全容が広く世界に知られるようになったわけだが、そのプレヴィンがロンドン交響楽団を指揮したラフマニノフの交響曲第2番のCDのライナーノートでプレヴィンは、次のように述べている。「・・・私の音楽生活において最も忘れがたい出来事の一つは、この交響曲の演奏中、モスクワの聴衆が公然と人目をはばかることなく、泣いているのを知ったときでした。・・・」アンドレ・プレヴィンというとアメリカ人のような印象を持つが、実は親はロシア人であり、ロシアの血が流れているラフマニノフに対する思いは、人並み以上なのだろう。

 ラフマニノフを理解するにはロシアの風土の理解無くしてはあり得ないかもしれない。ロシア系のピアニストがドイツ・オーストリア系の作曲者の作品を弾かないケースはほとんどないであろうが、逆にドイツ・オーストリア系のピアニストがラフマニノフの作品の演奏しないケースがある。このことは、ロシア音楽独特の雰囲気に素直に入っていけるかどうかが鍵を握っているようだ。ラフマニノフというと、先輩のチャイコフスキーを思い浮かべるが、チャイコフスキーは、意外に西洋風な作風も多く取り入れており、ヨーロッパの演奏家からすると、チャイコフスキーの方が、ラフマニノフよりは取っ付きやすいということが言えそうである。しかし、ラフマニノフの世界に一旦入ってしまうと、その魅力からそうやすやすと抜け出せなくなるのも確かだ。この「作曲家ダイジェスト ラフマニノフ(CD付)」(芝辻純子・堀内みさ著)は、よりラフマニノフという作曲家を理解したい人に加え、今一歩ラフマニノフの世界に入り込めてない人にも大いに参考になる書だ。(蔵 志津久)

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