2010年11月14日
?前橋汀子 ベスト・セレクション
クライスラー:プニャーニのスタイルによるアレグロ/エルガー:愛の挨拶など
ヴァイオリン:前橋汀子
ピアノ:前橋由子/若林 顕/東 誠三
CD:ソニー・ミュージック・ジャパン・インターナショナル SICC 10070
前橋汀子の演奏は、師のシゲティと同じように、ただ表面的な美しさを追求するのではなく、あくまでその曲の本質に迫り、その曲の持つ究極の美しさを我々リスナーに教えてくれる。もう何回聴いたか分らないほど聴いてきた曲が、また新しい魅力を持って私の前に現れてくれる喜びは大きい。ムード音楽的に聴ける演奏もそれはそれで気軽に聴けて楽しいものであるが、前橋汀子の演奏のように、滋味溢れる演奏で、しかも日本人でなければ出せない感性が、今の私とって何ものにも代えがたく、懐かしさで心が満たされる。ともすると無国籍の技巧第一主義がはびこる現在のクラシック音楽界で、前橋汀子の存在感は今後一層光を増すことになろう。
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2010年11月14日
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲
ヴァイオリン:アンネ・ゾフィー・ムター
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
CD:ドイツ・グラムフォン 419 241-2
ムターは、1963年にドイツで生まれた。ヘンリック・シェリングに就いてヴァイオリンを学び、13歳のときカラヤンに見い出され、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と共演し、天才少女として国際的に広く知られることになる。これまでドイツ連邦功労勲章一等、バイエルン功労勲章、オーストリア科学・芸術功労十字賞、フランス芸術文化勲章オフィシエなど、多くの賞を授与されている、名実共に世界のヴァイオリン界の第一人者といっても過言ではなかろう。ただ、それだけではなく若い演奏家のため、奨学金制度をつくり、自らレッスンを行うなど、面倒見の良い演奏家としても知られている。これは「自分がカラヤンから受けた教えを次世代へ伝えたいという思いから生まれたもの」(ベルリン在住・城所孝吉氏)だからそうである。ともすると演奏家は、自分の芸術への達成度だけを追い求める傾向がある中で、ムターのこのような活動は一際光を放っているように思われてならない。今後、さらなる円熟度を増した彼女の演奏が大いに楽しみだ。
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2010年11月14日
~アドルフ・ブッシュの芸術~
ベートーベン:弦楽四重奏曲
シューベルト:弦楽四重奏曲
ブラームス:弦楽四重奏曲
バッハ:管弦楽組曲
バッハ:ブランデンブルグ協奏曲
モーツアルト:ピアノ協奏曲
その他
ヴァイオリン/指揮:アドルフ・ブッシュ
CD:東芝EMI=TOCE-6781?97(CD17枚組)
アドルフ・ブッシュ は慎み深い中に人情味溢れる音楽を奏でるヴァイオリニストであった。この頃の名手の共通項は、演奏家は作品自体に語らせることにあったのではないかと思えてならない。ブッシュもこの一人ということができる。一番その特徴が現れているのがバッハの演奏だ。こんなに親しみやすいバッハは聴いたことがない。なんと情感に溢れたバッハであることよ。ベートーベンを弾いた時も同じことが言える。例えば、弦楽四重奏曲第15番の第3楽章をブッシュは、浪々としかも細やかな神経が複雑に交差して昇華するさまを描き切る。ブッシュほどヴァイオリンの持つ情感を最大限に発揮させた奏者は他にあるまい。
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2010年11月14日
シベリウス:バイオリン協奏曲
ヴァイオリン:五嶋みどり
指揮:ズービン・メータ
管弦楽:イスラエル・フィルハーモニック管弦楽団
CD:米ソニーミュージック
五嶋みどり の演奏を聴いていると、誰かに似た演奏だなと思えてきた。そうだ、ジネット・ヌブーに共通する強靭な精神性と曲の構成力の確かさが、みどりの身上となっていると感じられる。ジネット・ヌブーは早熟の天才ヴァイオリニストであったが、みどりも早くからその天分を世界の聴衆に証明して見せた。そして、この2人の共通点はしなやかなバネのようなヴァイオリン使いにあると思う。この結果聴き終わった印象は、力で弾きまくったというよりは、ヴァイオリンの持つ可能性を十分に引き出したという方が強い。現在、五嶋みどりは子供たちの音楽教育に力を入れているようである。この辺もただのヴァイオリニストとはちょっと違うなという感じがする。この先みどりの演奏はどのような変貌を遂げていくのであろうか。今度は歳をとった五嶋みどりの演奏を聴いてみた意気がする。
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2010年11月14日
シューベルト:ピアノ三重奏曲op99
メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲op49
演奏:スーク・トリオ
CD:日本コロムビア 25CO‐2310
スーク・トリオの3人の奏者の息はぴたりと合っており、ヴァイオリン、ピアノ、チェロのトリオの演奏を行うには他にはない最良の組み合わせだ。スーク のヴァイオリンが伸びやかに透明感のある音色を奏で、パネンカのピアノが軽快なテンポで、リズムを取っていく。そしてフッフロのチェロが極端にでしゃばらず、しっとりとした味わいを醸しだしている。シューベルトとメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲はこのようなスーク・トリオにとって最も持ち味を出しやすい曲と言えよう。この2曲のピアノ三重奏曲の中の代表的名盤であることは疑いない。
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2010年11月14日
シューマン:ヴァイオリンソナタ第1番/第2番
ヴァイオリン:ギドン・クレーメル
ピアノ:マルタ・アルゲリッチ
CD:ドイツ・グラモフォン F35G 20075
シューマンの2曲のヴァイオリンソナタは、ともすると、暗い情念が内に篭ったような演奏スタイルとなりやすいのだが、ここでの2人のデュオは、誠に伸びやかで、大らかな演奏に徹している。ピアノのアルゲリッチが、ピアノ伴奏というより、クレーメルのヴァイオリンと対等に、絡み合うようにシューマンの世界を演奏しているところが、他のシューマンのヴァイオリンソナタの録音とは一味違う。それに、何といってもクレーメルが弾くヴァイオリンのリズム感と音色がとても魅力的であり、聴いているうちに、何かお酒を飲んだ時のようにフラフラとなる、といってはオーバーかもしれないが、リスナーを引き付けずにおかない何かをクレーメルは持っている。聴き終わったときに、自然に口から“ブラヴォー”が出てきそうになる。
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2010年11月14日
ブラームス:ヴァイオリンソナタ第1番/第2番/第3番
ヴァイオリン:オーギュスタン・デュメイ
ピアノ:マリオ・ジョアオ・ピリス
CD:ポリドール(独グラモフォン) POCG-1618
オーギュスタン・デュメイのバイオリンの音色は、聴けば聴くほど、とろけるほどまろやかで、さわやかな雰囲気に酔いしれることができるが、このCDでも、ピアノのピリスとの共演でその特徴を遺憾なく発揮して、あっという間にブラームスの3つのヴァイオリンソナタを聴き終えてしまう。第1番と第2番に比べ第3番は、デュメイの特徴にさらに深みが加わり、相性が良いピアノのピリスとのやり取りが、一層出来栄えを豊かのものにしている。デュメイは、ヴァイオリニストとしてのほか、指揮者としても活躍しており、ベルギーのワロニー王立室内管弦楽団の首席指揮者に加え、08年秋からは関西フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任、さらに2011年からは、同フィルの音楽監督に就任。
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2010年11月14日
モーツアルト:バイオリンソナタ集他
ヴァイオリン:シモン・ゴールドベルク
ピアノ:リリー・クラウス 他
CD:東芝EMI TOCE-617579
シモン・ゴールドベルクは、姿勢がきちっと整っていて、しかも暖かい弓使いが人懐こさを醸し出す、稀有のヴァイオリニストであった。このCDでのモーツァルトのヴァイオリンソナタ集では、ピアノのリリー・クラウスとのデュオが最善の形で残されている。互いに会話するように弾き進み、いつの間にかモーツァルトのあの軽快で、少しメランコリックな世界へと誘う。シモン・ゴールドベルクのヴァイオリンは、シゲティでも聴かれるような毅然とした構成美が基本となっているが、一方では人間味溢れた柔らかな表現に優れたものを持っており、これが魅力で多くのファンを引き付けていたのである。ところでシモン・ゴールドベルクは、日本とかかわりの深い世界的に著名な音楽家である。第2次世界大戦ではインドネシアのジャワ島でリリー・クラウスとともに日本軍の捕虜になっている。そして、ピアニストの故山根美代子さんと結婚し、富山県に住んでいた。山根美代子さんは著名な音楽評論家であった山根銀二氏の娘さんである。
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2010年11月14日
ハチャトゥリアン:ヴァイオリン協奏曲
サンサーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ
ヴァイオリン:ミッシャ・エルマン
指揮:ウラジミール・ゴルシュマン
管弦楽:Viena State Opera Orchestra
CD:VANGUARD CLASSIC OVC 8035
このCDの発売は1959年6月で、あの“エルマン・トーン”で一世を風靡した著名なヴァイオリニストであったミッシャ・エルマンが弾いている。その独特な容貌がこれまたなんとなく親しみが持て、スター的な要素にこと欠かないヴァイオリニストではあった。ヴァイオリンの音そのものが聴くものにはっきりとアピールし、少しもあいまいなところがない。それでいて、独特の甘い香りが漂ってきそうな弓使いが、魅力をたっぷり含んでいた。エルマンが「どうだ、いい音だろう」とでも言っているような音づくりは、ショウマンシップたっぷりで、聴いていると精神が自然に高揚してくる。クラシック音楽なのに、何故かロックコンサートで会場が盛り上がったような感覚すら受ける。これからのクラシック音楽が発展を考えると、今後いい意味でのショウマンシップを持ったエルマンみたいな演奏家がたくさん出てきてほしいものだ。
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2010年11月14日
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲KV219
ベートーヴェン:ロマンス第1番/第2番
ウイニアフスキー:ヴァイオリン協奏曲第2番
ヴァイオリン:ダヴィッド・オイストラフ
ヴァイオリン:イーゴリ・オイストラフ
指揮:フランツ・コンヴィチュニー
管弦楽:ライプチヒ・ゲバントハウス管弦楽団
CD:独BERLIN Classics BC 2131?2
ダヴィッド・オイストラフ (1908―1974年)は旧ソ連出身の名バイオリニストである。レコードの時代においては神様みたいな存在で、ヴァイオリニストというと最初に名前が出てくるのがオイストラフであり、ラジオのクラシック音楽番組ではしょっちゅうオイストラフの演奏が流されていた。つまり、当時はオイストラフの演奏がどうのこうのではなく、ヴァイオリン界のドンが弾いているいるということだけで、すべてを超越した存在といっても過言ではなかった。このCDには子息のバイオリニスト・イーゴリ・オイストラフが参加しており、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲をダヴィッド、ベートーヴェンのロマンスとウイニアフスキーのヴァイオリン協奏曲をイーゴリがそれぞれ弾いている。ダヴィッド・オイストラフがまだ40歳代で、演奏を聴くと実に堂々としており、ドンの演奏だと合点がいく。また、堂々としていると同時にヴァイオリンをいとも軽々と弾きこなしている様は、やはりただのヴァイオリニストとは格が違うなという印象を与えずにはおかない。
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