2010年11月13日
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲他
ヴァイオリン:レオニード・コーガン
指揮:アレクサンダー・ガウク
管弦楽:The USSR TV and Radio Large Symphony Orchestra
CD:ARL7
レオニード・コーガン(1924年―1982年)はダビッド・オイストラフと並び旧ソ連を代表する偉大なるバイオリニストで、58歳で生涯を終えた。オイストラフの名声の前に少々隠れ気味のところがあったが、実力からするとオイストラフを上回るものをコーガンは持っていた。我々の世代ではオイストラフとコーガンはバイオリンの神様的存在で、野球でいえば長島、王といったことになろうか。今は旧ソ連は崩壊したが、クラシック音楽に関していえばオイストラフ、コーガンの時代が一番レベルが高かったのではなかろうか。ここでのコーガンの演奏を聴くと、高音から低音まで、実に伸びやかに、滑らかに、まるでビロードの肌触りのような演奏内容となっている。全体にバランスがとれ、しかもみずみずしさを漂わせた演奏はめったに聴かれるものではない。数あるチャイコフスキーのバイオリン協奏曲のCDの中でも特筆すべきCDと言えるであろう。
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2010年11月13日
~ヴァイオリン小品集~
ヴァイオリン:巌本真理
ピアノ:坪田昭三
CD:東芝EMI CZ309040
巌本真理の名を聞いてピンとくるの人は年配の方だろう。1979年(昭和54年)に亡くなっているので当然なことではある。彼女が第6回音楽コンクールに優勝しのが11歳の時で当時“天才少女ヴァイオリニスト”として広く知られることになる。1937年(昭和12年)のことである。このCDは彼女が残したレコードの復刻盤であるが、今聴いても楽しむことができる音質なのがうれしい。演奏内容はなんと素直に伸び伸びと弾いているのだろう。そして聴けば聴くほど引き込まれる。こんな演奏は今聴くことはできない。今は、何か他の演奏家とは違うことしなければ、誰も振り向いてくれない。この結果素直な演奏は影を消してしまったわけである。彼女のこのCDを聴くと、今の日本のクラシック音楽界が失ってしまった何かが残されている。それは演奏技術ではなく、心かもしれない。ピアノで名伴奏ぶりを聴かせる坪田昭三についても同じことが言える。
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2010年11月13日
シューマン:バイオリン協奏曲
メンデルスゾーン:バイオリン協奏曲
バイオリン小品集
ヴァイオリン:ヘンリック・シェリング
指揮:アンタール・ドラティ
管弦楽:ロンドン交響楽団
ピアノ:チャールズ・ライナー
CD:米PolyGram Records “MERCURY LIVING PRESENCE” 434 339-2
このCDのシューマンとメンデルスゾーンのバイオリン協奏曲は1964年7月に英国で、ピアノ小品集は1963年2月に米国で録音されたものであるが、今から40年以上前の録音にもかかわらず、マーキュリーの優れた録音技術のおかけで現在聴いても、いささかの不満もなくその演奏を聴くことができるのはうれしい。特にバイオリンのヘンリック・シェリング 、それに指揮のアンタール・ドラティは、私がその昔聴いていた演奏の中でも格別に愛着ある演奏者、指揮者であり、私にとっては貴重な1枚なのである。演奏は特にシューマンのバイオリン協奏曲が名演だ。ヘンリック・シェリング(1918年ー1988年)は、ユダヤ系ポーランド人で、メキシコに帰化したバイオリニストである。安定した演奏スタイルで、万人が納得できる説得力のある演奏が特徴だ。
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2010年11月13日
ブラームス:バイオリンソナタ第1~3番
ヴァイオリン:ジョコンダ・デ・ヴィトー
ピアノ:エドウイン・フィッシャー
CD:EMI SBT 1024
室内楽曲は大きなコンサートホールで聴くより、小さなコンサートホールの方がいい。もっといいのが自宅のオーディオルームであろう。これに最も当てはまるのがモーツァルトとブラームスの室内楽曲だ。特にブラームスのバイリンソナタはこんな環境にぴったりと合う。季節も春から初夏、あるいは晩秋の夕暮れ前なんていう時刻は、正に打ってつけだ。ブラームスのバイオリンソナタは、最もブラームスらしさがいっぱい詰まった曲だ。何か森の中に迷い込んだような、幻想的な雰囲気に酔いしれる。ヴァイリンのジョコンダ・デ・ヴィトー は、ブラームスの曲の中でもブラームスさが色濃く反映されたヴァイオリンソナタを、燻し銀のように、深く、しっとりと謳いあげる。なかなかこのように曲の内面から演奏した例をあまり知らない。ピアノ伴奏のエドウイン・フィッシャーとの息もぴったりで、より演奏の奥行きを広げている。
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2010年11月13日
フォーレ:ヴァイオリンソナタ第1番/同第2番
こもり歌op16/アンダンテop75
ヴァイオリン:ローラ・ボベスコ
ピアノ:ジャック・ジャンティ
CD:日本フォノグラム(PHILIPS) 30CD-3032
フォーレのバイオリンソナタは、ティボーとコルトーの録音など昔から名盤が多い。今回のCDはボベスコとジャンティによるものだが、これもまた名盤の1枚ということができよう。ジャンティのピアノもボベスコとの息がぴたりと合っている。私はこれまでボベスコというとどちらかというと女性的なバイオリニストという印象が強かったが、このCDでのボベスコは実に力強く、むしろ男性的な感じがするほどだ。そうはいっても、ボベスコならではの極上の美しさに彩られた響きはここでも健在である。ボベスコはルーマニア出身で、フランコ・ベルギー派のバイオリンニストとしてベルギーを拠点に活躍した。最初の来日は1980年1月であるが、このときはファンが奔走して実現させたことをみても当時の人気のほどが偲ばれる。そのボベスコも悲しいことに03年9月4日に他界してしまった。
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2010年11月13日
~ライブ録音による5大ヴァイオリン協奏曲集~
ベートーヴェン/メンデルスゾーン/ブラームス/シベリウス/コルンゴルト
バイオリン:ヤッシャ・ハイフェッツ
指揮:アルトゥール・ロジンスキー(ベートーヴェン、ニューヨーク1945年ライブ録音)
ギド・カンテルリ(メンデルスゾーン、同1954年)
ジョージ・セル(ブラームス、同1951年)
ディミトリー・ミトロプーロス(シベリウス、同1951年)
エフレム・クルツ(コルンゴルト、同1947年)
管弦楽:Philharmonic Symphony Orchestra
CD:米MUSIC AND ARTS PROGRAMS OF AMERICA,INC. CD・766-2
ヤッシャ・ハイフェッツ(1901年―1987年)は、ユダヤ人としてロシアに生まれる。6歳で既にメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を演奏したなど、神童ぶりを発揮。10代でヨーロッパ各地において演奏会を開き、1917年カーネギー・ホールで米国デビューを果たしており、1925年には米国の市民権を得ている。ハイフェッツが当時いかに聴衆から支持されていたかは、このCDを聴けばたちどころに分かる。それは第1楽章が終わるや否や拍手が送られ、それも、“待っていました”とばかりに曲が終わるかどうかというタイミングでの拍手である。コルンゴルトの協奏曲に至っては全楽章拍手というありさまだ。このコルンゴルトは近年になり再評価されている作曲家で、ヴァイオリン協奏曲はハイフェッツにより初演され、ハイフェッツはこの曲を生涯愛奏したそうである。このCDのもう一つの魅力は5人の豪華な指揮者たちだ。誰もが名前負けせず、締めるときは締め、ハイフェッツに歌わせるときは歌わせ、さすがマエストロというオーケストラ伴奏を聴かせてくれる。このCDは年配の方が聴けば昔を懐かしく思い出せ、若い人が聴けば伝説の天才ヴァイオリニスト・ハイフェッツの全容が掴めるという、まことに貴重なCDなのである。
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2010年11月13日
モーツルト:ヴァイオリン協奏曲第1/2/3/4/5番
ヴァイオリン:アルテュール・グリュミオー
指揮:コリン・デイヴィス
管弦楽:ロンドン交響楽団
CD:フィリップスレコード(日本フォノグラム) 416 632-2/412 250-2
このCDで演奏しているアルテュール・グリュミオー(1921年―1986年)は、我々には馴染み深い、フランコ・ベルギー楽派を代表するベルギー出身の名ヴァイオリニストである。フランコ・ベルギー楽派は、?自然で合理的な弓使い?細かなニュアンス、美しい音色?魅惑的なメロディーや華麗な技巧―などを特徴としているが、グリュミオーはこれらの特徴を完全に備えたうえ、さらに気品に満ちた演奏、艶やかで瑞々しい叙情性も十分すぎるほど備えている。クララ・ハスキルとの演奏もCDに残されているが、この二人の不世出の名手の演奏を凌駕する演奏は未だにないといえるほどだ。このモーツアルトのバイオリン協奏曲のCDでも、これらの特徴が存分に発揮されており、しかも鮮明な録音で残され、これらの曲のCDの決定盤といっても過言でなかろう。このCDは、あらゆる面で成熟し頂点に達したグリュミオーの円熟した演奏を存分に味わうことができる録音といえるし、コリン・デイビィス指揮のロンドン交響楽団もモーツアルトの世界を的確に描ききっていて、聴いていて心地良い。
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2010年11月13日
フランク:ヴァイオリンソナタ
ドヴュッシー:ヴァイオリンソナタ
フォーレ:ヴァイオリンソナタ第1番 他
ヴァイオリン:ジャック・ティボー
ピアノ:アルフレッド・コルトー 他
CD:東芝EMI CE30-5741
ティボー (1880年―1950年)とコルトー(1877年―1962年)のこの“フランス音楽 ヴァイオリンソナタ傑作選”ほど、私のクラシック音楽リスナー歴に影響を与えた録音は、そうないといってもいいほどだ。フランクのヴァイオリンソナタを弾くジャック・ティボーのヴァイオリンは、フランスの作曲家の作品とは思えないほどの、がっちりとした構成力を存分に見せ付ける演奏で、その堂々として、しかもゆったりとした弾きぶりは、これが真の巨匠の演奏だということの印象を深く刻み付けられる。ドヴュッシーのヴァイオリンソナタは、フランクのヴァイオリンソナタとはがらりと趣が異なり、いかにもフランスのヴァイオリンソナタだということが、ティボーとコルトーのフランス人のコンビによって、はっきりと肌で感じ取れる演奏内容となっている。フォーレのヴァイオリンソナタ第1番は、いかにもフォーレらしさに覆われたフランスのヴァイオリンソナタの傑作の一曲。第一楽章は、流れるように濃密な雰囲気を発散させながら、軽快に突き進むが、ティボーとコルトーは、互いの演奏を高めあいながら、徐々に気分を盛り上げていくところが、何ともただならぬ凄さを醸し出す。
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2010年11月13日
ショーソン:詩曲
ドビュッシー:ヴァイオリンソナタ
ラヴェル:ツィガーヌ/ハバネラ形式の小品
R.シュトラウス:ヴァイオリンソナタ
ヴァイオリン:ジネット・ヌヴー
指揮:イサイ・ドヴロヴェーン
管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団
ピアノ:ジャン・ヌヴー/グスターフ・ベック
CD:独EMI CDH 7 63493 2
1949年10月、飛行機事故で僅か30歳で命を絶たねばならなかった天才女流ヴァイオリニスト ジネット・ヌヴー(1919年―1949年)。今僅か7回のスタジオ録音と3回の放送ライブ録音が残されているのみだが、そのすべてがそれぞれの曲の決定版と言っても過言でないほどの至高の内容をもっている。ショパンの直ぐ側の墓にヌヴーは眠っているそうであるが、死後にフランス政府からレジョン・ドヌール十字章が贈られたことでも、生前その存在がいかに大きかったかが分かる。このCDに収められたショーソン、ドビュッシー、ラヴェル、R.シュトラウスの曲はいずれも名演中の名演で、現在でもこれらの演奏を超えた演奏は見あたらない。ジネット・ヌヴーはフランコ・ベルギー楽派に属するバイオリニストであると言われていたように、音色はすこぶる美しいが、その美しさが単なる美しさでなく、力強さを内に秘め、聴くものを思わず誘い込むような魅惑的な美しさだから、何回聴いても少しも飽きることがない。CDを何回聴いても新しい発見があるような、そんな演奏なんてめったにあるものではない。
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2010年11月13日
ベートーヴェン;ヴァイオリン協奏曲
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲
ヴァイオリン:フリッツ・クライスラー
指揮:ジョン・バルビノーニ/レオ・ブレッヒ
管弦楽:ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団/Berlin State Opera Orchestra
CD:伊CEDAR&WEISS(SiRiO) SO 5300-9
フリッツ・クライスラー (1875年―1962年)は、ウィーンに生まれ、1943年に米国籍を取得した名バイオにスト・作曲家である。7歳で特例としてウィーン高等音楽院に入学し、10歳で首席で卒業、さらに12歳でパリ高等音楽院を首席で卒業したという神童ぶりを発揮した。このCDはクライスラーが残した貴重な歴史的録音をCD化したものであるが、いわゆる歴史的名盤とは違い、豊かな音量を保っており、十分とはいえないまでも、現在でも鑑賞に堪え得るレベルを維持している。ベートーベンの協奏曲が1936年、メンデスゾーンが1927年の録音と70?80年前の録音にもかかわらず、ノイズがほとんど除去されており聴きやすいのがまことに嬉しい。ベートーヴェンの協奏曲は、バルビノーニの伴奏が実に威厳に満ちた正統派であるのに対し、クライスラーのバイオリンは、これには一向にお構えなく、優美で、美しい独自のベートーヴェン像を描いてみせる。ある意味では今まで聴いたことのないような、まろやかなベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲が演じられている。これを聴くとクライスラーの自信といおうか、自分が肌で感じたベートーヴェンを弾き切るのだという並々ならぬ信念みたいなものを感じ取れる。ベートーヴェンのバイオリン協奏曲を論じるなら一度は聴いておかねばならない録音ではある。
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