クラシック ピアニスト


バックナンバー 2010年11月13日

2010年11月13日

マリア・ジョアオ・ピリス(1944生まれ)  出身国:ポルトガル


モーツアルト:ピアノソナタ全曲

ピアノ:マリア・ジョアオ・ピリス

CD:日本ポリドール POCG 1480/5

 モーツアルトのピアノソナタ全集はリリー・クラウス、ワルター・ギーゼキング、グレングールド、イングリッド・ヘブラーなど、過去から多くの名盤に恵まれている。言わばショパン、ベートーベンと並びピアニストの登竜門的位置づけとなっている。これらの中でマリア・ジョアオ・ピリスのモーツアルト/ピアノソナタ全集は、十分にその存在意義持ち、さらに透明感ある音色、ゆったりとしたテンポ、そして何よりも説得力ある語り口、どれもとっても一級品であることは間違いない。特に名盤が多い中でピリスの最大の特徴は、現代人として最も共感できるモーツァルトに仕上がっていることであろう。クラウスやギーゼキングのように大時代がかっておらず、また、グールドのようなモダニズムとも違う。我々が日常過ごしている空間に入り込んでもなんら違和感を感じないモーツァルトとなっている。

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2010年11月13日

クララ・ハスキル(1895年―1960年)  出身国:ルーマニア


モーツアルト:ピアノ協奏曲第20番/第13番

ピアノ:クララ・ハスキル

演奏:フェレンツ・フリッチャイ指揮/リアス交響楽団
   ルドルフ・パウムガルトナー指揮/ルツェルン・フェスティバル管弦楽団

CD:独グラモフォン 437 676-2

 クララ・ハスキルはモーツアルトを弾くために生まれてきたようなピアニストである。よく“天上の音楽”といったようなことが言われるが、このCDのクララ・ハスキルを聴くと、正に“天上の音楽”そのものといったことを思い浮かべてしまう。陰影のある、それでいてあまり深刻ぶらない弾きかたとでもいえようか。油絵の世界というより水彩画の世界により近い感じがする。いつの間にか、現実にはありえないような、空想の世界へと聴衆を導いてしまう、稀有ななピアニストであった。フリッチャイ、パウムガルトナーの両指揮者も、ハスキルの特徴を最大限に引き出している。

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2010年11月13日

エミール・ギレリス(1916年―1985年)  出身国:ロシア


チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番/ピアノソナタ

ピアノ:エミール・ギレリス
   
指揮:エフゲニー・ムラビンスキー

管弦楽:レニングラード・フィルハモニー管弦楽団

CD:Russian Disc RD CD 11 170

 このCDは1971年3月にモスクアで行われた実況録音盤である。ギレリスのピアノは情緒に流されることなく、ピンと筋が通った演奏である。同時に柔らかな雰囲気も十分に醸し出すことができ、やはり超一流のピアニストであったことを裏付けるCDとなっている。録音は最近のCDと比べると聴き劣りはするが、30年以上前のライブ録音にしては良く録れている。ムラビンスキーの指揮はいつもと変わらず威風堂々としている。このCDのギレリス、ムラビンスキー、レニングラードフィルの3者の演奏は、旧ソ連最高の組み合わせといってもいいであろう。

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2010年11月13日

田中希代子(1932年―1996年)  出身国:日本


ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番
ショパン:ピアノ協奏曲第1番
モーツアルト:ピアノソナタ第11番 他

ピアノ:田中希代子

CD:キングレコード KICC576

 田中希代子は、1952年(昭和27年)にジュネーヴ国際コンクールで最高位受賞(イングリット・ヘブラーと1位なしの2位を分け合う)、翌1952年(昭和28年)ロン=ティボー国際コンクールで4位入賞、さらに1955年(昭和30年)にはショパン国際コンクールで10位入賞を果たした。つまり、日本人が国際コンクールへ参加すること自体が珍しかった時代に、4年間で3つの国際コンクールに入賞するという離れ業をやってのけたのである。このCD2枚には、ショパン国際コンクールでのライヴ録音によるショパンのピアノ協奏曲、NHK定期演奏会でのベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番のライブ録音、さらにキングレコード・スタジオにおけるモーツァルトのピアノソナタ第11番などが収められている。ベートーヴェンのピアノ協奏曲を聴くとその凛とした演奏姿勢には脱帽させられる。今こんな毅然としたベートヴェンを弾けるピアニストはいるのか。モーツァルトのピアノソナタを聴くと鮮やかなテクニックを見事に聴くことができる。こんなに流れるように正確で、しかも情感を持った演奏はめったに聴けるものではない。

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2010年11月13日

ウィルヘルム・ケンプ(1895年―1991年)  出身国:ドイツ


ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番「悲愴」
        ピアノソナタ第14番「月光」
        ピアノソナタ第15番「田園」
        ピアノソナタ第24番「テレーゼ」

ピアノ:ウィルヘルム・ケンプ

CD:エコー・インダストリー CC‐1005

 ウィルヘルム・ケンプ(1895年―1991年)は、私が最も尊敬するピアニストだ。実に誠実にピアノにたち向かい、少しも奇をてらうところがなく、淡々と弾きこなす。そして、とても内容の深い、その精神性が聴くものを圧倒する。ドイツのピアノ演奏の伝統を身に付けた演奏スタイルは、実に堂々としていて、一瞬の隙も見せない。だからといって、コチコチで堅苦しいといった印象は薄いのだ。むしろ人間味のある、まろやかな音質はとても親しみやすいし、聴いていて疲れることはない。何よりも、音質的には澄んだピュアな響きが何とも印象的で、安定感もある。聴いていて、これこそドイツのピアノ演奏の真髄だという感じがするのだ。今、ケンプのような温かみのあるピアノを弾くピアニストは、ほんとに少なくなってしまった。

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2010年11月13日

クラウディオ・アラウ(1903年―1991年)  出身国:チリ


ベートーヴェン:ピアノソナタ全集

ピアノ:クラウディオ・アラウ

CD:PHILIPS 426 761?2

 クラウディオ・アラウは安定した技量に加え中道を行く姿勢が、聴く者に安心感と何かやすらぎを与えるところがいい。この特徴が最大限に発揮しているのがベートーヴェンのピアノソナタ全集であろう。堂々とした弾きっぷりに惚れ惚れしてしまうのと同時に、これこそ本来のベートーヴェンだと誰をも納得させてしまいそうなところがすごい。誇張とかもったいぶることもない、実に淡々とした演奏だ。私はこのような特徴は好ましいものに感じられるが、何か物足りなさを感じる人もいるであろう。でも、エクセントリックなベートーヴェンより、クラウディオ・アラウの弾く正攻法のベートーヴェンの方が、好ましいと感じる人の方が多いと思う。

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2010年11月13日

マルグリット・ロン(1874年―1966年)  出身国:フランス


フォーレ:ピアノ四重奏曲第1番/第2番

ピアノ:マルグリット・ロン

パスキエ弦楽三重奏団(第1番)/ジャック・ティボー(バイオリン)、モーリス・ヴィュー(ビオラ)、ピエール・フルニエ(チェロ)(第2番)

CD:東芝EMI CE30 5408

 LP盤はレコード針が擦り切れるほど聴いてきたが、これは“世紀の巨匠たち”と銘打たれたCDのシリーズものの歴史的名盤の1枚。このCDの存在意義はピアノがマルグリット・ロン というところにある。その優雅でいて芯の一本通ったようなピアノ演奏は他の追随を許さない魅力に溢れている。第1番はパスキエ三重奏団との共演で、ピアノと弦楽器の渾然一体となった響きが素晴らしい。音も第2番に比べ聴きやすく、十分に鑑賞に耐えられるレベルだ。第2番は演奏者の個人技の発揮のし合いといった趣がある。特にティボーとロンの互いにキャッチボールを楽しむかのような演奏は、さすが名人技として聴き惚れてしまう。“ロン=ティボーコンクール”の名で有名な二人だが、互いにの演奏そのものを認め合っていたことを理解できるのが、このCDだということができる。

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2010年11月13日

ディヌ・リパッティ(1917―1950)  出身国:ルーマニア


バッハ:パルティータ第1番
     衆讃前奏曲「来たれ、異教徒の救い主よ」(ブゾーニ編)
     衆讃前奏曲「イエスよ、わたしは主の名を呼ぶ」(ブゾーニ編)
     教会カンタータ第147番より「主よ、人の望みの喜びよ」(ヘス編)
     シチリアーナ<フルートソナタ第2番より>(ケンプ編)
D.スカルラッティ:ソナタL.23/ソナタL.413“パストラーレ”
モーツアルト:ピアノソナタ第8番

ピアノ:ディヌ・リパッティ

CD:東芝EMI CC33-3520

 ディヌ・リパッティ(1917―1950)は、過去から現在に至るまで比肩するピアニストは一人もいないし、これからも現れないと思うほど、私にとっては特別の存在のピアニストだ。その演奏は、あらゆる人間の雑念から解放され、ただひたすら純粋な音楽の持つ響きに身を委ね、聴くものすべてに、崇高といえるほどの音楽の高みに導いてくれる。しかし、そのピアノの響きは決して冷たくはなく、何か人懐っこい、温かみに包まれてるいるので、何回聴いても飽きることはなく、聴くたびにピアノ演奏とは何かを教えてくれる。そんなディヌ・リパッティが残したピアノ録音の中でも、リパッティらしさが存分に発揮されている演奏を1枚のCDにぎゅっと収めたのが、今回の“J.Sバッハ/スカルラッティ&モーツアルト”と銘打たれたものだ。言わばリパッティの録音の中の最高の贈り物といった趣がする。バッハのパルティータ第1番の出だしからして、他のどんなピアニストの追随を許さない。背筋がぴーっと張ったような適度の緊張感を背景に、中庸をえたテンポのピアノ演奏が鍵盤から泉のようにごく自然に溢れ出す。

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2010年11月13日

サンソン・フランソワ(1924年―1970年)  出身国:フランス


フランソワ・イン・ジャパン(ショパン:ポロネーズ/シューマン:子供の情景他)

ピアノ:サンソン・フランソワ

CD:東芝EMI(ミュージカル ノート)23MN 1007

 このCDはサンソン・フランソワ(1924年―1970年)が日本に来たとき(1967年)に東芝EMIのスタジオで録音された貴重なものである。ここでのフランソワの演奏は、何かいつものフランソワとは違い、とても上機嫌というか、明るい雰囲気に包まれたものとなっている。私はフランソワの生の演奏を1回聴いたことがある。上野の文化会館で行われたが、その入り口に「演奏者の都合により曲目が変更されています」と大きく書かれていたのを思い出す。フランソアなら十分にありえる話だ。フランソワの一般の録音は、音がぼんやりしている。これはフランソワの要求なのかどうなのかは分からないが、残念ながらそうである。これに対して、この日本での録音だけは鮮明なピアノタッチまで録音され、ピアノの弦がしなうところまで聴きとれ、フランソワファンにとっては忘れられない大切な1枚である。今はもうあの“フランソワ節”を生で聴けないと思うと、サンソン・フランソワのファンの一人としては悲しい気分になる。

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2010年11月13日

グレン・グールド( 1932年― 1982年)  出身国:カナダ


ブラームス:4つのバラード 作品10/2つのラプソディ 作品79/間奏曲集

ピアノ:グレン・グールド

CD:ソニーレコード SRCR 2072

 グレン・グールドはよくクラシック音楽界の異端児といわれる。晩年にはコンサートを行わず、レコード録音のみを行ったという。人とのかかわりを絶ったところで音づくりを行う。これは彼が求めていたものの最後に行き着いた終着点であったのであろう。録音された曲目も通常の選曲とは少々異なることが多い。そんな前提で今回のCDを聴いてみると、びっくり仰天をする。何とも人懐っこい雰囲気をかもし出しており、温かみさえ覚える。そこには異端児のグレン・グールドではなく、常識人のグレン・グールドが居るのである。このCDに収められたブラームスのピアノ曲は通好みで、ポピュラーな曲ではない。それにもかかわらず、グレン・グールドが弾くと何か前に聴いた事のある懐かしい曲に聴こえ、思わず聞き惚れてしまう。グレン・グールドは決して異端児なんかではない、スケールの大きいピアニスト、これが私の結論だ。

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