クラシック音楽 日本の歌


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2014年7月03日

♪ 「日本の歌」のルーツを訪ねて 29 東京混声合唱団


~林 光(編曲)による 東混/日本の抒情歌~

城ヶ島の雨        北原白秋・詩/梁田 貞・曲
お菓子と娘        西条八十・詩/橋本国彦・曲
箱根八里(箱根の山) 鳥居 枕・詩/滝廉太郎・曲
椰子の実          島崎藤村・詩/大中寅二・曲
カチューシャの唄     島村抱月・詩/中山晋平・曲
からたちの花       北原白秋・詩/山田耕筰・曲
鉾をおさめて        時雨音羽・詩/中山晋平・曲
中国地方の子守歌   日本古謡/山田耕筰・曲
荒城の月          土井晩翠・詩/滝廉太郎・曲
浜辺の歌           林 古渓・詩/成田為三・曲

編曲:林 光

指揮:田中信昭

合唱:東京混声合唱団

ピアノ:林 光/金谷良三/原田史郎/伊東悦子

録音:1973年3月19日~20日、ビクター第1スタジオ

LP:ビクター音楽産業 SJX‐1066

 多くの日本の歌は、独唱用に書かれている。これに対し西洋の教会音楽を発祥とするクラシック音楽は、合唱曲が大きな役割を演じていることが多い。それでは日本の歌を合唱団が歌たったらどうなるか。そんな新しい試みに、今から40年ほど前の1973年に挑戦したのがこの録音である。戦後の作曲界を牽引した林光(1931年ー2012年)が日本の歌を合唱曲用に編曲し、創設者の田中信昭(1928年生まれ)が東京混声合唱団を指揮をしている。これが誕生した経緯は、林光と田中信昭と指揮者の岩城宏之(1932年ー2006年)の三人が話しているとき「合唱曲に、誰もが知っているものがあまりないなぁ。それなら日本人がよく知っている曲を、合唱曲に編曲したらいいじゃないか」ということで実現したという。林光は「編曲については、原曲が持っている要素を、無理しないでふくらませることにとどめる。また、ピアノパートは、伴奏というより協奏にちかく、それがこの歌曲集の特徴といってもいい。この編曲は、ぼくが敬愛する諸先輩たちに、いくらかの批判をこめつつ捧げるオマージュだ」と書き残している。東京混声合唱団(略称:東混)は、1956年に、田中信昭および、彼を含む東京藝術大学声楽科の卒業生20数名によって結成された。創立者の田中信昭の意向により、今でも日本の合唱曲の創作および普及に重心が置かれている。私は今から40年以上前のこの録音を愛聴している。どこからともなく、暖かくも柔らかい音色が、全身をつつむように聴こえてくるのだ。そして同時に、そこにはどことなく静寂さが宿っている。今から40年前の日本は、今とは比べものにならないほど貧しかった。しかし、心は今と同じ、いや今以上に豊かだったことが、この録音を通して聴き取れる。私は、いつもこの録音を聴くと、一緒に口ずさむ。聴き終ると「日本に生まれてきてほんとによかったな」とすら思う。私が所有しているのは1973年発売のLPレコードだが、現在でもCDで購入可能なようなので、是非、一度機会があれば聴いてみてほしい。作曲、作詩、編曲、指揮、合唱、ピアノ伴奏のいずれを取っても、その志の高さに今でも感動させられる。

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