クラシック音楽 日本の歌


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2014年7月04日

♪ 「日本の歌」のルーツを訪ねて 30(最終回) 日本の歌曲


~日本の歌曲~

からたちの花      中沢 桂  北原白秋・詩/山田耕筰・曲
この道          伊藤京子 北原白秋・詩/山田耕筰・曲
花             中村邦子 武島羽衣・詩/滝廉太郎・曲
              木村宏子  
荒城の月        立川清登  土井晩翠・詩/滝廉太郎・曲
浜辺の歌        中沢 桂  林 古渓・詩/成田為三・曲
椰子の実        中沢 桂  島崎藤村・詩/大中寅二・曲
砂山           伊藤京子  北原白秋・詩/山田耕筰・曲
波浮の港        中村 健  野口雨情・詩/中山晋平・曲
平城山          中沢 桂  北見志保子・詩/平井康三郎・曲
赤とんぼ         中沢 桂  三木露風・詩/山田耕筰・曲
初恋            中沢 桂  石川啄木・詩/越谷達之助・曲
浜千鳥          中沢 桂  鹿島鳴秋・詩/弘田竜太郎・曲
城ケ島の雨       中村 健  北原白秋・詩/梁田貞・曲
早春賦          中村邦子  吉丸一昌・詩/中田章・曲
夏の思い出       伊藤京子  江間章子・詩/中田喜直・曲
花のまち         中村浩子  江間章子・詩/団伊玖磨・曲
叱られて         中沢 桂  清水かつら・詩/弘田竜太郎・曲
中国地方の子守唄   中沢 桂  日本古謡/山田耕筰・曲
鉾をおさめて       立川清登  時雨音羽・詩/中山晋平・曲
ペチカ           立川清登  北原白秋・詩/山田耕筰・曲
曼珠沙華         中沢 桂  北原白秋・詩/山田耕筰・曲
野薔薇          中沢 桂  三木露風・詩/山田耕筰・曲
出船            中沢 桂  勝田香月・詩/杉山長谷夫・曲
宵待草          中沢 桂  竹久夢二・詩/多忠亮・曲
雪の降る町を      中村浩子  内村直也・詩/中田喜直・曲
さくらさくら        伊藤京子  日本古謡/山田耕筰・曲

ピアノ:三浦洋一

録音:1973年/1974年/1976年、ビクター青山スタジオ

CD:ビクター音楽産業 VDR-28057

 このCDの録音は、1973年と1976年に、ビクター青山スタジオで行われた。録音したのは、当時の声楽界(二期会)の第一人者たちであり、わが国クラシック音楽界の最高峰にあった人たちでもあった。それだけに「日本の歌」をクラシック音楽の一つのジャンルとして捉え、あたかもシューベルトの歌曲を歌うかごとくに「日本の歌曲」として歌っている。それだけに格調が高く、これほど正統性に満ちた録音は、あまりほかに聴くことができない。出演者の中には既に亡くなっている方もおられるが、このCDのライナーノート(木村重雄氏)から、その横顔を紹介しよう。

 <伊藤京子>オペラ「夕鶴」(團伊玖磨)の公演の成功を円熟した至芸で支えるなど、1960年代の創作オペラ運動で不可欠な役割を演じてきた。

 <中沢桂>イタリア・オペラのプリマ・ドンナ役をはじめとする広範なレパートリーにより、1970年代を中心に多彩なコンサート活動を展開した。

 <中村邦子>そのリリシズムは、洗練された歌唱により、つねに作品の姿をありのまま描き出す。日本歌曲のリサイタルにより1981年度の文化庁芸術祭優秀賞を受賞した。

 <中村浩子>フランスと日本の現代歌曲の解釈と表現は、つねに的確で、不必要な要素を一切さしはさむことがなく、安定性をうかがわせるところから、きわめて信頼度が高い歌手。

 <木村宏子>端正なうちにも豊かな詩情をただよわせた演奏を聴かせる。オラトリオ歌手として長い生命力を持つことも、それと無縁でない。

 <中村健>知的な抑制の利いた演奏により、独自の存在になっている。現代の英国でピーター・ピアーズが果たしたような創造的な役割を日本で実践しているのが、彼の仕事と言ってよい。

 <立川清登>日本のクラシック音楽愛好家の層を拡げるという点での功績はきわめて大きい。これは、ひと前で歌うということについて本能的な巧みさを備えているからで、こうした要素を持つ声楽家は、ありそうでいて極めて少ない。

 <三浦洋一>ピアノ伴奏において、日本歌曲の解釈で、多くの作曲者より、多大の信頼を寄せられている。声楽家たちの生理を十分に咀嚼した彼の音楽が、このCDでも新鮮な生命力をもたらしている。

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2014年7月03日

♪ 「日本の歌」のルーツを訪ねて 29 東京混声合唱団


~林 光(編曲)による 東混/日本の抒情歌~

城ヶ島の雨        北原白秋・詩/梁田 貞・曲
お菓子と娘        西条八十・詩/橋本国彦・曲
箱根八里(箱根の山) 鳥居 枕・詩/滝廉太郎・曲
椰子の実          島崎藤村・詩/大中寅二・曲
カチューシャの唄     島村抱月・詩/中山晋平・曲
からたちの花       北原白秋・詩/山田耕筰・曲
鉾をおさめて        時雨音羽・詩/中山晋平・曲
中国地方の子守歌   日本古謡/山田耕筰・曲
荒城の月          土井晩翠・詩/滝廉太郎・曲
浜辺の歌           林 古渓・詩/成田為三・曲

編曲:林 光

指揮:田中信昭

合唱:東京混声合唱団

ピアノ:林 光/金谷良三/原田史郎/伊東悦子

録音:1973年3月19日~20日、ビクター第1スタジオ

LP:ビクター音楽産業 SJX‐1066

 多くの日本の歌は、独唱用に書かれている。これに対し西洋の教会音楽を発祥とするクラシック音楽は、合唱曲が大きな役割を演じていることが多い。それでは日本の歌を合唱団が歌たったらどうなるか。そんな新しい試みに、今から40年ほど前の1973年に挑戦したのがこの録音である。戦後の作曲界を牽引した林光(1931年ー2012年)が日本の歌を合唱曲用に編曲し、創設者の田中信昭(1928年生まれ)が東京混声合唱団を指揮をしている。これが誕生した経緯は、林光と田中信昭と指揮者の岩城宏之(1932年ー2006年)の三人が話しているとき「合唱曲に、誰もが知っているものがあまりないなぁ。それなら日本人がよく知っている曲を、合唱曲に編曲したらいいじゃないか」ということで実現したという。林光は「編曲については、原曲が持っている要素を、無理しないでふくらませることにとどめる。また、ピアノパートは、伴奏というより協奏にちかく、それがこの歌曲集の特徴といってもいい。この編曲は、ぼくが敬愛する諸先輩たちに、いくらかの批判をこめつつ捧げるオマージュだ」と書き残している。東京混声合唱団(略称:東混)は、1956年に、田中信昭および、彼を含む東京藝術大学声楽科の卒業生20数名によって結成された。創立者の田中信昭の意向により、今でも日本の合唱曲の創作および普及に重心が置かれている。私は今から40年以上前のこの録音を愛聴している。どこからともなく、暖かくも柔らかい音色が、全身をつつむように聴こえてくるのだ。そして同時に、そこにはどことなく静寂さが宿っている。今から40年前の日本は、今とは比べものにならないほど貧しかった。しかし、心は今と同じ、いや今以上に豊かだったことが、この録音を通して聴き取れる。私は、いつもこの録音を聴くと、一緒に口ずさむ。聴き終ると「日本に生まれてきてほんとによかったな」とすら思う。私が所有しているのは1973年発売のLPレコードだが、現在でもCDで購入可能なようなので、是非、一度機会があれば聴いてみてほしい。作曲、作詩、編曲、指揮、合唱、ピアノ伴奏のいずれを取っても、その志の高さに今でも感動させられる。

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2014年7月01日

♪ 「日本の歌」のルーツを訪ねて 28 福井 敬


落葉松            野上 彰・詞/小林秀雄・曲
荒城の月           土井晩翠・詞/瀧 廉太郎・曲
秋の月            瀧 廉太郎・詞・曲
出船              勝田香月・詞/杉山長谷夫・曲
鐘が鳴ります        北原白秋・詞/山田耕筰・曲
待ちぼうけ          北原白秋・詞/山田耕筰・曲
宵待草            竹久夢二・詞/多 忠亮・曲
かやの木山の        北原白秋・詞/山田耕筰・曲
城ヶ島の雨          北原白秋・詞/梁田 貞・曲
初恋              石川啄木・詞/越谷達之助・曲
野の羊            大木惇夫・詞/服部 正・曲
さくら横ちょう         加藤周一・詞/別宮貞雄・曲
悲しくなったときは      寺山修司・詞/中田喜直・曲
ひぐらし            北山冬一郎・詞/團 伊玖磨・曲
紫陽花            北山冬一郎・詞/團 伊玖磨・曲
恋のかくれんぼ       谷川俊太郎・詞/武満 徹・曲
ぽつねん           谷川俊太郎・詞/武満 徹・曲
死んだ男の残したものは 谷川俊太郎・詞/武満 徹・曲
小さな空            武満 徹・詞・曲
見上げてごらん夜の星を  永 六輔・詞/いずみたく・曲

テノール:福井敬

ピアノ:谷池重紬子

録音:2010年9月7日~8日、11月9日、相模湖交流センター

CD:ディスク クラシカ ジャパン DCJA-21019

 このCDは、日本のテノールの第一人者である福井敬が満を持して録音した日本の歌のアルバムである。3年ほど前の発売なので“日本の歌のルーツを訪ねて”というには少々気が引けるが、その内容は、これまでの日本の歌のイメージとはまた違う、新しい面に光を当てた優れたものに仕上がっている。朗々と歌う福井敬の日本の歌は、“力強い抒情味”とでも言ったらいいのであろうか。聴いた後には、何か吹っ切れたような清々しさがあるのである。そして、何より日本語の美しい発音が一際光り輝く。福井敬は、岩手県出身。国立音楽大学声楽科卒業、同大学院修了。二期会オペラスタジオ修了。90・94年文化庁派遣芸術家在外研修員等によりイタリアに留学。92年二期会創立40周年記念「ラ・ボエーム」ロドルフォ役でデビュー以来、数々のオペラ作品に主演。第20回イタリア声楽コンコルソでミラノ大賞(第1位)、第20回ジロー・オペラ賞新人賞、第4回五島記念文化賞オペラ新人賞、第44回芸術選奨文部大臣賞新人賞、第25回ジロー・オペラ賞、第9回出光音楽賞、第33回エクソンモービル音楽賞洋楽部門本賞など多くの受賞歴を持つ。正に、福井敬は、国宝級の輝く美声をもつ日本が世界に誇るスーパー・テナーとして、現在オペラを中心に大活躍をしている。なお、「ファンによるファンのための非公式サイト『福井敬.net』」の「ディスコグラフィ」で「日本歌曲CD製作レポートNo1~5」を見ることができる。

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