クラシック音楽 音楽の泉


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2012年1月06日

♪ 「エッ、『ストラディバリウス』って、いい音ではなかったのですか?」・・・米国での実験結果に思う


 最近の米国から届いたニュースの中で、古今のヴァイオリンの名器中の名器と言われている「ストラディバリウス」や「ガルネリ」についての実験結果が紹介されていたのが目に止まった。それというのも、最近「ストラディバリウス」と「現代のヴァイオリン」の弾き較べが行われ、私自身聴き較べてみる機会を得たからである。その時の私の印象は、「ストラディバリウス」は随分渋い音がするな、と感じたのに対し、「現代のヴァイオリン」の音色は、明るく伸びやかだな、というものであった。「実際のコンサートでどちらが聴きたいか」と問われたなら、私なら「現代のヴァイオリン」と答えたいところだが、「お前の耳は名器を聴き取る能力がない」と一蹴されそうで、到底口に出しては言えそうもない雰囲気だったことを覚えている。

 そんな折、今回の実験結果のニュースが報じられたので、大げさに言えば鬼の首を取った気分になったのである。そのニュースよると「米インディアナ州で開かれた国際コンテストに集まった21人のヴァイオリニストに協力してもらい、楽器がよく見えないよう眼鏡をかけたうえで、18世紀に作られたストラディバリウスや、現代の最高級ヴァイオリンなど計6丁を演奏してもらい、どれが一番いい音か尋ねたところ、安い現代のバイオリンの方が評価が高く、ストラディバリウスなどはむしろ評価が低かった」というのだ。

 この実験がどのような条件下で行われたのかどうかの確認はできないので、あまり早計な結論は出さない方がいいのかもしれない。そもそも「いい音」というのはどのような音をいうのか、はなはだ曖昧な基準ではある。個人の趣味の問題でもあるし、別のところで、同じような実験をしたら、全く別の結果が出て来るかも知れない。現在、世界の物理学会で「ニュートリノが光速よりも早い」という実験結果が物議を醸していることでも分るように、実験結果が必ずしも真実だとは言えないケースも少なくない。甚だしい場合は、研究者の功名心や予算獲得のための手段に実験が利用されるケースだってなくはないのだから。

 仮にそんなことを差し引いても、今回の米国でのヴァイオリンの実験結果は、何か気に掛かるのである。人間は第一印象に弱い。一度、「これが世界一の音だ」と思い込んだなら、何度聴いても「世界一」の音に聴こえてしまう。以前、音楽評論家に目隠しをして、生の演奏とオーディオ再生の音の聴き較べ実験をしたところ、聴き分けられなかったという話があるくらいなのだ。この際、日本にある「ストラディバリウス」と「現在のヴァイオリン」との聴き較べの演奏会を、多くのクラシック音楽ファン参加の下で行い、その投票結果を公開したらさぞかし面白いと思うのだが。ただし、それでも「いい音」とは何かという謎は、永遠に解き明かせそうにもない。(蔵 志津久)

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