クラシック音楽 音楽の泉


2015年4月26日

◇ 「朝日カルチャーセンター」(東京・新宿)の室内楽コンサートを聴いて思うこと 

 一般のコンサート会場は、ステージが客席から一段と高い位置にあり、最前列に座っていても演奏家からの距離はかなりある。オーケストラの場合はこれでも構わないが、室内楽の場合は何か親近感が湧かない。コンサート専門の会場ならば採算の面でも、多くの聴衆を収容しなければならないはずであり、この結果、演奏家と聴衆の距離が近づくということは、通常ではありえないようだ。

 そんな、欠点を解消して、演奏家とほんの数メートルの位置で、しかもステージとの段差がなく、少人数(100名以内)で聴ける、穴場的な会場がある。「朝日カルチャーセンター」(東京都新宿区)が、通常の講座の講義室を使って行うレクチャーコンサートである。演奏者と聴衆との間が近いために、音響的にも何も問題は起きないし、何か演奏家の自宅で行う私的なコンサートに招待されたような親近感も感じられる。

 そんな会場で2015年4月25日(土)の午後1時~2時30分に開催された「モーツァルトとシューマンのピアノ四重奏曲の午後」(曲目=モーツァルト:ピアノ四重奏曲第2番/シューマン:ピアノ四重奏曲)は、曲目ならびに演奏内容の両方とも最良のものであり、久しぶりに室内楽の醍醐味を味わうことができた。コンサート専門の会場ではない場所で、このような満足感の高い室内楽の演奏を聴けたということは、大いに収穫であった。

 当日の出演は、ピアノが、ジュネーブ国際コンクールなど数々の受賞歴を持つ日本ピアノ界の大御所、深沢亮子。ヴァイオリンが、ベルリン芸術大学大学院を卒業し、現在ベルリンに在住して国際的演奏活動を展開する瀬川祥子。ヴィオラが、現在桐朋学園大学音楽学部1年在学中で、第11回東京音楽コンクール弦楽器部門第1位の田原綾子。チェロが、現在桐朋学園大学大学院在籍で、大学在学中にCDデビューを果たした霧島国際音楽賞受賞者の水野由紀。つまりベテランから若手までが一堂に会したところに特色があるメンバーである。

 それに加え、通常の演奏会ではあまりない、中野 雄氏による軽妙洒脱な解説付きだったので、会場の雰囲気も和らいだ。演奏内容は、モーツァルト:ピアノ四重奏曲第2番は、モーツァルトらしい歯切れのいい快活な表現が印象的であり、シューマン:ピアノ四重奏曲では、シューマンのロマンの香りが馥郁とする、いずれも秀演であった。とても臨時編成の四重奏団とは思えないほどの出来栄えである。

 今回の「朝日カルチャーセンター」での室内楽コンサートを聴き、弦楽四重奏曲などの演奏は、ステージと客席との間に段差がなく、演奏者を身近で聴ける会場で開催できないものかと強く感じた。演奏者を会場の中心に配置し、聴衆がその周りをぐるりと取り囲むようにすれば、収容人員もかなり増やすことができるはずだし、それなら採算も取りやすくなるのではないだろうか。そうすれば、室内楽がもっと身近な存在になるはずだと思うのだが・・・。(蔵 志津久)

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