クラシック音楽 音楽の泉


バックナンバー 2012年 2月

2012年2月24日

♪ LPレコード復権の予兆か、それとも最後の挑戦か?


 現在、わが国においてクラシック音楽の録音媒体としてディジタルのCDのシェアが高い中、昨年末に ドイツプレスの14枚のLPレコードからなる「フルトヴェングラーRIAS録音選集LP-BOX」(キング ・インターナショナル)が発売された。 これは1947年~1954年にRIAS放送局が録音したフルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルのオリジナル76cm/secテープからLPレコード化したもの。果たしてこれは、今後アナログのLPレコードの復権の予兆 となのであろうか、それともこれがLPレコード最後の挑戦となるのであろうか。

 今回のLPレコードの発売の経緯は、全世界のフルトヴェングラーファンからの要望に応えたものという。 現在、わが国のクラシック音楽界においては、アナログのLPレコードは、ディジタルのCDやインターネッ トからのダウンロードに駆逐され、徐々に市場からその姿を消そうとしている。このため、熱烈なLP レコードのファンは、中古レコード店へ出向き、お気に入りのレコードを探し回るか、海外からの輸入レ コード専門店へ注文するしかない状況にある。

 何故、そうまでしてLPレコードにこだわるかというと、音質の良さに尽きる。レコードは、扱いを一つ 間違うと傷を付けてしまうし、長期間保存するとカビなどにより雑音が発生してしまう。そんな理由により、 現在では、主役の場をCDに明け渡してしまい、市場から徐々にその姿を消そうとしている。しかし、そんな 欠点を補って余りあるのが、音質の良さである。普通のCDは、帯域を圧縮して録音するため、オリジナル テープの音質が損なわれると言われてきた。現に普通のCDを聴くと何かキンキンした音質が気にはなる。

 そこで一般のCDの音質を改良し、限りなくアナログ録音に近づけたCDが登場している。それらは、 HQCD(ハイク・オリティCD)、SHM-CD(スーパー・ハイ・メタリアルCD)、SACD(スーパー・オーデ ィオCD)などである。また最近では、クラシック音楽でもインターネットからのダウンロードが徐々に 普及し始めているが、これを高音質化した“ネットオーディオ(PCオーディオ)と呼ば れる新しいジャンルのオーディオが注目されている。つまり、これまで音質が悪いと評判が悪かったディ ジタルオーディオ自体がアナログの良さを取り入れた新しい製品に生まれ変わろうと模索しているのである。

 そんなオーディオ激動の真っ只中に今回のアナログの「フルトヴェングラーRIAS録音選集LP-BOX」の 発売である。「鮮やかで豊かな管楽器の倍音や、シャープかつ重厚な弦パートが聴け、こんなにもオリジ ナルマスターテープには豊富な音が凝縮されているのかと予想以上の音に驚かされたのである。CDの方が 遥かにオーディオ特性は優れているのに、このLPはそんなことを考えさせないほど、広いレンジ感を聴か せている」(オーディオ・ベーシック 2011 AUTUM Vol.60角田郁雄氏)とLPレコードへの専門家の評価は 高い。

 最新の技術を駆使したディジタルオーディオが、従来のアナログオーディオであるLPレコードをこの まま駆逐してしまうのか、あるいは、アナログのLPレコードがディジタルオーディオの追撃を振り切って、 今後も生き延びることができるのか。今回の「フルトヴェングラーRIAS録音選集LP-BOX」の発売は、近未 来のクラシック音楽のオーディオのあり方を占う上でも注目されよう。(蔵 志津久)

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2012年2月10日

♪ 若手のホープ金子三勇士とウクライナ国立オデッサ歌劇場管弦楽団のコンサートを聴いて


 金子三勇士とウクライナ国立オデッサ歌劇場管弦楽団のコンサートを聴きに、東京・新宿の東京オペ ラシティに行ってきた。両方ともこれまで生で聴く機会がなかったので、半分は興味津々、半分は期待ほどでなかったらどうしよう、という一抹の不安があったのも事実である。しかし、そんな不安は一挙に 解消してしまうほどの出来栄えであったから、満足して帰路に付けたのだった。演奏曲目は全てチャイコフスキーで、アレクサンドル・ドレンスキーの指揮により大序曲「1812年」、次に金子三勇士のピアノで ピアノ協奏曲第1番、そして最後に交響曲第5番というプログラム。

 満足したと言っても、最初の大序曲「1812年」だけ取ると、私にはちょっと納得いかない演奏であった。 音は立派に鳴るのではあるが、何かオーケストラのメンバーがやたらに力を入れ過ぎる。弦楽器、管楽器とも音は出ているのだけれど、何かばらばらな感じがして、しかも一本調子で馴染めない。曲の性格上、派手に演奏するのは仕方がないと思うが、逆にそうであるからこそ情感あふれる演奏を期待していたのだが・・ ・。このオーケストラの特徴なのか、あるは指揮者の好みなのか。もう、後の曲の演奏に期待するしかない と半ば諦めていたのも事実だ。

 しかし、その杞憂もピアノ協奏曲第1番の演奏であっさりと解消してしまった。金子三勇士のピアノ 演奏は、如何にも若者らしい瑞々しさに溢れ、しかもテクニックは万全だ。決して気負うところがない ところが逆に将来の可能性の大きさを伺わせる演奏内容であった。普通、チャイコフスキーのピアノ 協奏曲第1番を若手のピアニストが弾くと、やたらと肩に力が入り、無理にスケールを大きく見せようとするので聴衆の方が疲れてしまう。ところが金子三勇士は全く違う。真正面からチャイコフスキーに向き合うのではあるが、変な気負いは微塵もない。普通、泥臭く聴こえるチャイコフスキーが実に美しく、しかも堂々と響くのである。何かチャイコフスキーのピアノコンチェルトの新しい側面を垣間見れた、と言っては言い過ぎなのかもしれないが、新鮮な息吹がそこにはあったのだ。

 ドレンスキー&オデッサ歌劇場管も、ここでは実に的確な伴奏を演じてくれた。分厚く、豊かな弦楽器とよく通る管楽器のバランスが見事に合い、金子三勇士のピアノ演奏を盛り上げ、さらにお釣りがくるようないい演奏であった。この好調さは、最後の交響曲第5番に繋がった。東欧特有の美しい弦楽器の響きが印象的であったし、管楽器もこの交響曲の陰影をより一層引き立たせることに成功していた。これを演出したドレンスキーの指揮が的確であったからこそ、そういうことが言えるのであろう。

 いずれにせよ今回のコンサートを聴いて、金子三勇士がわが国のピアノ界のホープであることを確認できたことは、私にとって大きな収穫であった。金子三勇士は、日本人の父とハンガリー人の母の下、1989年に生まれた。国立リスト音楽院で学び、現在東京音楽大学4年に在籍している。2008年、バルトーク国際ピアノコンクールに優勝し世界の注目を浴びた。また、2010年には「ホテルオークラ音楽賞」を受賞。これからは“世界の金子三勇士”として一層の飛躍を期待したいものだ。(蔵 志津久)

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