2016年8月01日
交通新聞社から「東京クラシック地図」という書籍が発刊された。この本は一言で言うと、東京とその近郊の“クラシック音楽リスナーハンドブック”とでも言ったらよいのであろうか。東京においてクラシック音楽に接するには、どこに、どのようにして行けばいいのかが、具体的な店舗名、会場名が美しい写真とともに簡潔に紹介されているので便利この上ない。
同書は、平成19年に発刊された、東京とその近郊にある名曲喫茶に加え、クラシックの生演奏が聴けるレストランやバー、あるいはマニアが涎を垂らしそうなレア盤を扱う中古レコード店などを紹介した「散歩の達人ブックス 東京クラシック地図」をベースにして、9年ぶりに増補・新改訂したもの。
その昔、名曲喫茶が一大ブームになったことがあった。その後は下火になってしまい、最近では「もうあの店も閉店しているのだろうな」と考えることもしばしばだ。しかし、この「東京クラシック地図」を見たら、そんな杞憂は一挙に吹き飛んでしまった。「あの懐かしい名曲喫茶はまだ現役だ」と、読み進むうちに嬉しくなってくるのだ。
これは、昨今のレコード復活の動きと無縁ではあるまい。ここで紹介されている名曲喫茶の多くが豊富なレコードの在庫を有しており、来店客のリクエストに応じて、貴重なレコードを一枚一枚再生しているのだ。CDの音に慣れ親しんできたリスナーにとっては、レコード特有の温かみのある音は、さぞ新鮮に感じるであろう。
そんな名曲喫茶のあり方も、同書を読むと現在では徐々に変わりつつあるようだ。昔は、「名曲喫茶に入ったならば一言もしゃべってはならない」という暗黙の掟のようなものがあったと思う。ところが現在では、迷惑でない限り、おしゃべりもOKというお店も増えつつあるようだ。これは、クラシック音楽リスナーのすそ野を広げることに繋がるから大歓迎だ。
このほか同書の特色は、クラシック音楽リスナーのビギナーの人たちに対しても、かゆいところに手が届くような配慮がなされている点が挙げられる。例えば、コンサート会場に行く時の服装は?という素朴な疑問にも丁寧な解説がなされている。コンサートホールでの「公演前」「公演中」「公演後」のマナーはこれを読めば完璧だ。
ところで、この書は「東京クラシック地図」ということなのだから、東京以外のクラシック音楽リスナーにとって関係ないのでは、と思いがちだが、そうでもない。何かの折に、東京に出てきたとき、ちょっとクラシック音楽に触れたいな、と思って同書を手に取ると、名曲喫茶やCD・レコード店、楽器店名がたちどころに分かるので大変便利なはずだ。(蔵 志津久)
◇
書名:東京クラシック地図
編集・制作:都恋堂
取材・文:内池久貴・カベルナリア吉田
発行:交通新聞社(散歩の達人POCKET)
目次:Chapter1 名曲喫茶~昭和から平成へ、文化の発信基地の現在。~
<掲載店>ライオン(渋谷)/ヴィオロン(阿佐ヶ谷)/ネルケン(高円寺) ほか
<COLUMN>レア盤、名盤、店主は太鼓判!
名曲&音楽喫茶で聴いておきたいおきたいこの一枚
Chapter2 レストラン&バー~生演奏をBGMにしてしまう贅沢な夜の過ごし方~
<掲載店>音楽ビアプラザ 銀座店(銀座)/カーサ クラシカ(赤坂見附) ほか
<COLUMN>クラシック音楽がもっと日常的なものに
クラシックコンサートの「カジュアル化」 eplus LIVING ROOM CAFE&DINING(渋谷)
Chapter3 音楽ホール~名門ホールから寺院まで~
<掲載店>サントリーホール(六本木)/東京芸術劇場(池袋)/築地本願寺(築地) ほか
<COLUMN>初心者必見!身のこなしを磨いてコンサートをさらに楽しく
コンサートホール、歩き方の流儀 ほか
Chapter4 クラシック音楽専門店~ネットを遮断して休日は街に出よう!~
<掲載店>ディスクユニオン(新宿三丁目)、文化堂(中野)、古賀書店(神保町) ほか
<COLUMN>大手CD&レコードショップのクラシック指南
ビギナーにすすめたい名盤ベスト3 ほか