クラシック音楽 音楽の泉


バックナンバー 2016年 3月

2016年3月27日

◇東日本大震災を機に結成された東北の青年・子供オーケストラが相次ぎ成果


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 東日本大震災を機に結成された東北の青年・子供オーケストラが大きな成果を出し始めている。「東北ユースオーケストラ」は、3月26日、坂本龍一音楽監督の下、東京で第1回演奏会を開催した。また、「福島青年管弦楽団」は、4月3日に米国ボストンでボストン交響楽団と共演する。さらに「相馬子どもオーケストラ」は、ドイツのベルリンにて、ベルリン・フィルの有志メンバーをはじめとするドイツの音楽家たちと、3月11日(ドイツ時間3月10日)ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」などを共演した。

 「東北ユースオーケストラ」は、2013年9月~10月、宮城県松島町において開催された音楽祭「Lucerne Festival(ルツェルン音楽祭) ARK NOVA 松島 2013」をきっかけに企画・編成されたオーケストラ。楽団員は東日本大震災の被災三県(岩手県・宮城県・福島県)を中心とした小学校・中学校・高等学校の子どもたちが、プログラム(演奏)ごとに楽団編成を変えながら活動している。同楽団は、子どもたちの活力が、周囲の大人や地域全体、そして東北全体に活力を与え、あたらしい未来をつくりだすことを目指し、震災を乗り越えて生まれた強くて美しい音楽を、東北から全国、そして世界へ届けて行くことが目標。音楽監督には、坂本龍一氏が就任。

 「福島青年管弦楽団」は、プロ音楽家でつくる英国の慈善団体「キーズ・オブ・チェンジ」(パノス・カラン代表)の呼び掛けで2014年に結成された。震災から5カ月後の11年8月、クラシック音楽を通じた社会貢献に取り組んでいたカラン氏の慰問演奏が切っ掛けであった。主に福島市内在住の中、高、大学生48人が団員で、演奏を通して東日本大震災と東京電力福島第一原発事故からの復興を目指す県民の元気な姿や思いを伝えている。これまで「キーズ・オブ・チェンジ」の援助で、ロンドンや東京でも演奏した。メンバーは、中学生から大学生までの46人。現在、市内の中学校などで、平日の午後9時過ぎまで練習をしているという。

 「エル・システマジャパン」は、東日本大震災で被災した子どもたちが音楽での経験を通して、自信や尊厳を回復し、自分の人生を切り開いていく「生きる力」を育むことを目的に2012年3月に設立された。「エル・システマ」は、1975年に南米ベネズエラで始まり、現在では60以上の国・地域で活動が行われている音楽教育プログラム。希望するどの子も家庭の事情にかかわりなく、楽器を奏で、歌うことができること、そして、皆で参加するオーケストラの形で学んでいくことを重視(「相馬子どもオーケストラ&コーラス」)。当初、福島県相馬市で約30人から始まった週末音楽教室も、今では150人が参加するまでに発展している。2014年5月には、2カ所目となる岩手県大槌町での活動が開始された。(蔵 志津久)

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2016年3月08日

◇アイノラ交響楽団、1回の演奏会でシベリウスの交響曲第5番の初稿版と最終稿版を演奏


アイノラ交響楽団

 アイノラ交響楽団は、第13回定期演奏会において、ベリウスの遺族より許可の下、シベリウスの交響曲第5番の1915年の初稿と1919年の最終稿を、1回の演奏会で演奏する。通常、シベリウスの交響曲第5番は、最終稿が演奏されるが、同じ演奏会で初稿も演奏されることにより、二つの版の聴き比べが可能となる、貴重な機会といえる。

 アイノラ交響楽団は、シベリウスをこよなく愛するアマチュア演奏家により、2000年12月に創設され、以後、1年に1回、定期演奏会を開催して、シベリウスの作品を演奏している。因みに、アイノラ交響楽団のアイノラとは、フィンランド語で「アイノのいる場所」という意味で、シベリウスは最愛の夫人「アイノ」の名にちなみ、ヘルシンキ郊外のヤルヴェンパーの自邸をアイノラと呼び、そこで多くの傑作を創り上げた。

 シベリウスの交響曲第5番は、1915年、シベリウスの50歳の誕生日に合わせて作曲された。少し急いでつくられたためか、初演の後、直ぐに改訂稿に着手し、翌1916年に完成。初稿では第1楽章と第2楽章に分かれていたものが、改訂稿では一つの楽章にまとめられている。そして、1919年に最終稿が完成する。

 通常、シベリウスの交響曲第5番は、この最終稿版が演奏されるが、2015年のシベリウス生誕150年を機に、初稿版が演奏される機会も多くはなってきている。しかし、1回の演奏会で、初稿版と最終稿版とが同時に演奏される機会は極めて稀。指揮は、日本シベリウス協会会長で、愛知室内オーケストラ常任指揮者を務める、アイノラ交響楽団正指揮者の新田ユリ。

 新田ユリは、自著の「ポポヨラの調べ~指揮者がいざなう北欧音楽の森~」(五月書房刊)の中で、シベリウスの交響曲第5番を次のように紹介している。「7曲の交響曲の中で比較的構成が明確で重厚な趣があるとされる『第5番』。しかし楽譜を見てみると白い部分が多い。キャンパスの使い方が上手な作曲家、シベリウス。その音の遠近法は、音符を記さずとも聞こえることがたくさんあることを教えてくれる」(蔵 志津久)

                               ◇

                      <アイノラ交響楽団 第13回定期演奏会>

シベリウス:春の歌 作品16(1894年/初稿)
        交響曲第5番変ホ長調 作品82(1915年/初稿)
        吟遊詩人 作品64
        交響曲第5番変ホ長調 作品82(1919年/最終稿)

指揮:新田ユリ

管弦楽:アイノラ交響楽団

会場:杉並公会堂大ホール(東京都杉並区)

日時:2016年4月10日(日) 14:00開演(13:15開場)

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