クラシック音楽 音楽の泉


2015年4月18日

◇ 日本全国へ、そして世界に向けて静かに広がる「レクイエム・プロジェクト」の輪

 今、日本全国に「レクイエム・プロジェクト」の輪が静かに広がり始めている。2015年8月30日(日)午後2時、「ティアラこうとう 大ホール」(東京都江東区)において、「レクイエム・プロジェクト東京 2015」演奏会が開催された。演奏会の最初に、会場いっぱいとなった聴衆と演奏者が全員起立して、関東大震災や東京大空襲などで亡くなられた方々に対して黙とうを捧げた後に、演奏会が開始となった。

 曲目は、全て作曲家の上田 益氏の作品で、<第1部>「スターバト・マーテル~悲しみの聖母~」<第2部>合唱曲「若夏に思う」「とうさんの海」「大切なふるさと」「樹憶~きおく~」<第3部>「レクイエム~あの日を忘れない~」の順で演奏された。指揮は上田 益と右近大次郎、管弦楽はレクイエム・プロジェクト東京管弦楽団、合唱は、すみだ少年少女合唱団など多くの合唱団が参加し、独唱者を合わせると100名を超える大編成となっていた。

 これほどまでの大規模な演奏会が整然と行われる自体、参加者全員の「レクイエム・プロジェクト」へ対する熱き思いがなくては到底実現は不可能であろう。「レクイエム・プロジェクト」とは、阪神・淡路大震災の被災地「神戸」で、2008年から始まった市民参加型の追悼と希望の合唱プロジェクトのこと。その目的は、自然災害や戦災で傷ついた地域の方々が、悲しみや苦しみなど、自らの思いを歌に託し、相互にそれぞれのコンサートに自由参加しながら、各地の痛みを共有し、共感し合い、被災地と被災地、そして被災者の方々同士がその活動の中で、つながっていくことにある。

 「レクイエム・プロジェクト」が注目される点は、いくつかある。一つは、市民参加型運動が永続的であるという点。2015年だけでも1月神戸、6月沖縄、7月仙台、広島、8月気仙沼、兵庫県作用町、そして東京と続き、9月には北いわて、長崎でのコンサートが予定されている。日本全国で静かにではあるが「レクイエム・プロジェクト」の輪が広がりを見せ始めているのだ。二つ目は、新たに作詞、作曲された曲が、常日頃の練習を積み重ねて、コンサートの場で発表されること。決して出来合いのものではなく、自ら生み出すという精神。三つ目は、日本国内に留まらず、海外へもその輪が広がりを見せていること。

 2014年10月11日には、ウィーンのカトリック教会「聖シュテファン大聖堂」で、日本からの参加者158名に加えた総勢195名で、上田 益:レクイエム~あの日を忘れない~など合計14曲が演奏され、約800名の聴衆に深い感銘を与えた。約850年の歴史を持つ「聖シュテファン大聖堂」で日本人の作曲したレクイエムが演奏されたのは、初めてのことであり、演奏後10分を超えるスタンディング・オベーションが続いたという。そして2016年9月には、バチカン・カトリック教会総本山「サン・ピエトロ大聖堂ミサ演奏」など、イタリアの4か所での演奏会が予定されている。

 このように、「レクイエム・プロジェクト」は、これまでの日本における市民運動の枠を越えて、大きく世界に羽ばたこうとしていることは、大いに注目されることだ。「レクイエム・プロジェクト」のスタートとなった上田 益:レクイエム~あの日を忘れない~は、CD化され(上田 益指揮プラハ・フィルハーモニー管弦楽団、キューン合唱団ほか)、アマゾンから誰でもが手軽に購入できる。このレクイエムは一度聴くと直ぐに耳に馴染む。そして何より日本人の作曲したレクイエムということがひしひしと伝わってくる。この曲は、本当に心がやすまる、真の傑作なのだ。(蔵 志津久)

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