クラシック音楽 音楽の泉


2010年11月12日

♪ チェロ界の新しいヒーロー 宮田 大の演奏を間近で聴いて ♪

 チェロの響きは、懐が深いとでもいおうか、ヴァイオリンには出せない独特の音色が何とも好ましい。しかし、私はピアノのコンサートやヴァイオリンのコンサートには時々行くが、何故かチェロのコンサートには行かない。聴きたいのであるが、何故か行かないのである。この一つ原因は、チェロのコンサートの回数が、ピアノやヴァイオリンに比べ少ないこともある。

 そんなことで、チェロのコンサートがあれば行こうと思っていたところ、丁度、朝日カルチャーセンターで、ロストロポーヴィッチ・チェロ・コンクールにおいて日本人で初めて優勝した宮田大(1986年生まれ)が、話と演奏をするということなので、即座に行くことに決めた。朝日カルチャーセンターのレクチャーコンサートは、普通の講義室で行われ、演奏家の直ぐ側で、あたかもその演奏家の家の中で聴くようで、アットホームの感じがしてなかなかいいものである。

 当日は、「マロの部屋 第1回」のゲストとして宮田大が招かれたというお膳立てであった。かの有名な「マロ」ことNHK交響楽団第1コンサートマスターの篠崎史紀氏が演奏家たちを招き、対談を行うというシリーズ企画なのだ。

 話は、宮田大の桐朋女子高等学校(普通高校でも女子高と名前が付けられていたそうな)時代は、片道2時間かけて毎日宇都宮の自宅からチェロを持って3年間通っていたことなどが語られた(本人は母のパワーがそうさせたという)。海外留学はジュネーブ音楽院に入り、今はドイツで一軒家を借りて住んでいるそうだ。日本ではまず学校を選ぶが、ヨーロッパはまず先生を選ぶそうである。先生と生徒の相性を重要視するようだ。コンクールも日本とヨーロッパは大分違うようで、日本のコンクールでは一切拍手はないが、ヨーロッパではコンクールは演奏会と一緒で、終わると拍手があるという。宮田は日本でもそうあってほしいとさかんにアピールしていた。

 また、当初宮田は、自分が演奏する曲に日本人作曲家の作品を入れてなかったが、「日本人であるあなたが何故日本人の作曲家の作品を演奏しないのか」という疑問を外国人に投げかけられ、それ以後、日本人の作品を演奏するようにしているそうである。この辺も今後の日本人が考えなければならないテーマの一つだと言えそうだ。

 さて、最後に演奏が行われた。N響のコンマスのマロさんがヴァイオリン、宮田大がチェロ、それにN響のメンバーの女性がピアノという、臨時編成の豪華メンバーで、ラフマニノフとアレンスキーのピアノ三重奏曲が演奏された。宮田大のチェロは、決して浪々と大きな音を響かせるのではなく、小気味良く、切々とした心情を吐露するような、ニュアンスのある演奏ぶりに思わず引き付けられた。マロさんは演奏が終わった後、宮田大のチェロ演奏を評して「語るような演奏」と言っていたが、正にそのものずばりだと思う。(蔵 志津久)(2010/7/26)

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