クラシック音楽 音楽の泉


2016年10月04日

☆人工知能が新たな曲をつくる時代が到来したようだ


 パソコン2

 現在、人工知能への関心が急速に高まってきている。

 これは、人工知能が将棋の名人を破るという快挙を成し遂げたことを切っ掛けに、今後、あらゆる分野へ人工知能が進出すると考えられているだからだ。

 既に、人工知能技術を使って大学試験問題を解かせたり、小説を書かせたりする試みも始まっている。

 そして、その流れが作曲の分野にも進出しようとしているのだ。

 このほど、大阪大学と東京都市大学の研究グループは、人工知能技術を使って新たに開発した「自動作曲システム」により、新しい曲を作曲することに成功したという。

 果たして、近い将来、人工知能が作曲した交響曲の演奏会が、多くの聴衆を集め開かれることになって行くのであろうか。

 興味は尽きない。(蔵 志津久)

 
 大阪大学産業科学研究所の沼尾正行教授、および東京都市大学メディア情報学部の大谷紀子教授の研究グループは、人工知能技術を駆使して開発した「自動作曲システム」を用いて、フォークデュオ「ワライナキ」と共同で、「共同募金運動70年記念応援ソング」を完成させることに成功した。

 今回使用された人工知能に基づく「自動作曲システム」は、目的の感性を想起させる既存楽曲が入力されると、入力された楽曲に共通する特徴を学習し、得られた特徴に基づいて楽曲を生成する機能を持っている。

 今回、同システムにより生成されたメロディをベースとして、プロのアーティストと共同で応援ソングを完成させることに成功したもの。

 両者は平成28年5月から、観客の感性データに基づく自動作曲を行うことを目的に、コンサート観客の感性をアンケートにより収集し、それに基づいて作曲するという共同研究を行ってきた。これは、あるグループの構成員に共通する感性を抽出することで、そのグループを高揚させる音楽を作り出すことを目指している。

 このほど、社会福祉法人奈良県共同募金会より、ワライナキに「共同募金運動70年記念応援ソング」の作曲の依頼があり、新たに開発した「自動作曲システム」を用いて作曲することになったもの。

 作曲に当たり、ワライナキへの依頼ということから、ワライナキならではの雰囲気が漂う曲である必要があるとともに、「共同募金運動70年記念応援ソング」としても、感謝や応援の気持ちを想起させるような楽曲にすりこととした。

 そこで、ワライナキの曲の中でも特に感謝や応援を歌った3曲を前述の自動作曲システムに入力し、複数の短い曲を作成し、それにワライナキが手を加えて歌詞をつけ、曲を完成させた。

コメント/トラックバック投稿 »



2016年9月19日

☆アイノラ交響楽団、2017年4月にシベリウスの「『報道の日』祝典のための音楽」と「火の起源」を日本初演


新田ユリ1
アイノラ交響楽団正指揮者・新田ユリ

 シベリウスの作品を専門に演奏するアマチュア交響楽団のアイノラ交響楽団が2017年4月9日、第14回定期演奏会において、シベリウス:交響組曲「レンミンカイネン 4つの伝説」のほか、日本初演となる「『報道の日』祝典のための音楽」と「火の起源」を演奏する。

 管弦楽曲「報道の日のための音楽」は、帝政ロシアによる新聞への弾圧に対して企画された「新聞祭典の催し」の時(1899年)に書かれた曲で、フィンランド人の愛国心をかきたてる音楽。前奏曲、ヴァイナモイネンの歌、フィン人の洗礼、トゥルク城のヨハン公、30年戦争、大いなる敵意、フィンランドの覚醒からなり、後に組曲「歴史的情景第1番」(op.25)と交響詩「フィンランディア」(op.26)へと発展した。

 「火の起源」は、1902年に作曲され、管弦楽とバリトン独唱、男声合唱のための作品。テキストは、フィンランドの古い伝承詩を編纂した叙事詩「カレワラ」の中の第47章「太陽と月の幽閉」を使っている。 曲はバリトンが歌う前半と男声合唱が歌う後半から成り、幻想的な神話の世界をイメージが描かれている。

 なお、これまでアイノラ交響楽団によるシベリウスの日本初演記録は次の通り。

シベリウス:序曲ホ長調(第2回定期演奏会)
       劇音楽「クリスティアンII世」オリジナル全曲版(第2回定期演奏会)
       管弦楽のためのバラード「森の精」op.15(第6回定期演奏会)
       交響詩「レンミンカイネン」op.10(第7回定期演奏会)
       序曲イ短調(第8回定期演奏会)

                                   ◇

<アイノラ交響楽団 第14回定期演奏会>

シベリウス:交響組曲「レンミンカイネン 4つの伝説」op.22
       「報道の日」祝典のための音楽 JS 137(日本初演)
       火の起源 op.32(日本初演)

指揮:新田 ユリ(正指揮者)

管弦楽:アイノラ交響楽団

バリトン:大久保光哉

男声合唱:合唱団お江戸コラリアーず

日時:2017年4月9日(日)

会場:杉並公会堂大ホール

コメント/トラックバック投稿 »



2016年8月25日

☆13挺のストラディヴァリウスが奏でる夢の演奏会


H Stradivari 2016-東京.indd

 イタリアの楽器製作家アントニオ・ストラディヴァリウスは、17世紀後半から18世紀前半にかけて、クレモナの工房で約1000挺のヴァイオリン、チェロ、ヴィオラをつくった。これらの名器の多くは、長年、工芸品としてコレクターやアマチュア音楽家により所蔵され、実際にコンサートで弾かれることは少なかった。しかし、どんな名器でも名手の手で弾き込まれなければ、その真価を発揮することはない。

 そこで今回、選ばれた演奏家たちによって、貸与されたストラディヴァリウスの名器を持ち寄り、その真価を発揮するコンサートが大阪のフェスティバルホールで開催される。

 ハーゲン・クァルテットが所有しているのが、世界で6組しかないと言われるストラディヴァリウスの弦楽四重奏セットの一つ「パガニーニ・クァルテット」。また、諏訪内晶子は、かつて名手ハイフェッツが所有していた、世界三大ストラディヴァリウスと呼ばれる「ドルフィン」で演奏する。

 選ばれた演奏家によって奏でられる13挺のストラディヴァリウスから、どのような演奏が紡ぎだされるのか、一生に一度は聴いておきたい演奏会と言えるであろう。(蔵 志津久)

                                 
                               ◇

~ストラディヴァリウス・コンサート2016~

テレマン:4つのヴァイオリンのための協奏曲 ト長調 TWV 40:201
ポッパー:3つのチェロとピアノのためのレクイエム 作品66
ドヴォルザーク:2つのヴァイオリンとヴィオラのための三重奏曲「テルツェット」ハ長調 作品47
ショスタコーヴィチ:2つのヴァイオリンとピアノのための5つの小品
ピアソラ(森孝之編):6つのヴァイオリンとピアノのためのリベルタンゴ
ヘンデル:2つのヴァイオリンとピアノのためのソナタ ト長調 作品2-6 HWV391
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第13番 変ロ長調 作品130より「カヴァティーナ」
メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲 変ホ長調 作品20

弦楽四重奏:ハーゲン・クァルテット

           ルーカス・ハーゲン
           ライナー・シュミット
           ヴェロニカ・ハーゲン
           クレメンス・ハーゲン

ヴァイオリン:ヴェロニカ・エーベルレ
        セルゲイ・ハチャトゥリアン
        スヴェトリン・ルセフ
        諏訪内晶子
        レイ・チェン
        アラベラ・美歩・シュタインバッハー
        有希・マヌエラ・ヤンケ
        パブロ・フェランデス
        石坂団十郎

ピアノ/江口玲

会場:フェスティバルホール

日時:2016年9月9日(金)午後7時

コメント/トラックバック投稿 »



2016年8月01日

☆懐かしい名曲喫茶やクラシックが聴けるレストランなどが美しい写真とともに紹介されている「東京クラシック地図」(交通新聞社刊)


 東京クラシック地図

 交通新聞社から「東京クラシック地図」という書籍が発刊された。この本は一言で言うと、東京とその近郊の“クラシック音楽リスナーハンドブック”とでも言ったらよいのであろうか。東京においてクラシック音楽に接するには、どこに、どのようにして行けばいいのかが、具体的な店舗名、会場名が美しい写真とともに簡潔に紹介されているので便利この上ない。

 同書は、平成19年に発刊された、東京とその近郊にある名曲喫茶に加え、クラシックの生演奏が聴けるレストランやバー、あるいはマニアが涎を垂らしそうなレア盤を扱う中古レコード店などを紹介した「散歩の達人ブックス 東京クラシック地図」をベースにして、9年ぶりに増補・新改訂したもの。

 その昔、名曲喫茶が一大ブームになったことがあった。その後は下火になってしまい、最近では「もうあの店も閉店しているのだろうな」と考えることもしばしばだ。しかし、この「東京クラシック地図」を見たら、そんな杞憂は一挙に吹き飛んでしまった。「あの懐かしい名曲喫茶はまだ現役だ」と、読み進むうちに嬉しくなってくるのだ。

 これは、昨今のレコード復活の動きと無縁ではあるまい。ここで紹介されている名曲喫茶の多くが豊富なレコードの在庫を有しており、来店客のリクエストに応じて、貴重なレコードを一枚一枚再生しているのだ。CDの音に慣れ親しんできたリスナーにとっては、レコード特有の温かみのある音は、さぞ新鮮に感じるであろう。

 そんな名曲喫茶のあり方も、同書を読むと現在では徐々に変わりつつあるようだ。昔は、「名曲喫茶に入ったならば一言もしゃべってはならない」という暗黙の掟のようなものがあったと思う。ところが現在では、迷惑でない限り、おしゃべりもOKというお店も増えつつあるようだ。これは、クラシック音楽リスナーのすそ野を広げることに繋がるから大歓迎だ。

 このほか同書の特色は、クラシック音楽リスナーのビギナーの人たちに対しても、かゆいところに手が届くような配慮がなされている点が挙げられる。例えば、コンサート会場に行く時の服装は?という素朴な疑問にも丁寧な解説がなされている。コンサートホールでの「公演前」「公演中」「公演後」のマナーはこれを読めば完璧だ。

 ところで、この書は「東京クラシック地図」ということなのだから、東京以外のクラシック音楽リスナーにとって関係ないのでは、と思いがちだが、そうでもない。何かの折に、東京に出てきたとき、ちょっとクラシック音楽に触れたいな、と思って同書を手に取ると、名曲喫茶やCD・レコード店、楽器店名がたちどころに分かるので大変便利なはずだ。(蔵 志津久)

                                ◇

書名:東京クラシック地図

編集・制作:都恋堂

取材・文:内池久貴・カベルナリア吉田

発行:交通新聞社(散歩の達人POCKET)

目次:Chapter1 名曲喫茶~昭和から平成へ、文化の発信基地の現在。~

          <掲載店>ライオン(渋谷)/ヴィオロン(阿佐ヶ谷)/ネルケン(高円寺) ほか
          <COLUMN>レア盤、名盤、店主は太鼓判! 
                      名曲&音楽喫茶で聴いておきたいおきたいこの一枚

    Chapter2 レストラン&バー~生演奏をBGMにしてしまう贅沢な夜の過ごし方~

          <掲載店>音楽ビアプラザ 銀座店(銀座)/カーサ クラシカ(赤坂見附) ほか
          <COLUMN>クラシック音楽がもっと日常的なものに
            クラシックコンサートの「カジュアル化」 eplus LIVING ROOM CAFE&DINING(渋谷)

    Chapter3 音楽ホール~名門ホールから寺院まで~

          <掲載店>サントリーホール(六本木)/東京芸術劇場(池袋)/築地本願寺(築地) ほか
          <COLUMN>初心者必見!身のこなしを磨いてコンサートをさらに楽しく
                   コンサートホール、歩き方の流儀 ほか

    Chapter4 クラシック音楽専門店~ネットを遮断して休日は街に出よう!~

          <掲載店>ディスクユニオン(新宿三丁目)、文化堂(中野)、古賀書店(神保町) ほか
          <COLUMN>大手CD&レコードショップのクラシック指南
                   ビギナーにすすめたい名盤ベスト3 ほか

コメント/トラックバック投稿 »



2016年7月20日

☆第1回「オペラ歌手 紅白対抗歌合戦~声魂真剣勝負~」、9月6日、サントリーホールで開催


 紅白対抗歌合戦

 第1回 「オペラ歌手 紅白対抗歌合戦~声魂真剣勝負~」 が9月6日、サントリーホールで開催される。

 ベテランから若手まで、日本トップクラスのオペラ歌手が日本最高峰の音楽の殿堂「サントリーホール」に集い、紅白(男声・女性)に分かれ、競い合うことになっている。

 年末恒例となっている「NHK紅白歌合戦」のように、今後、日本のクラシック音楽界に「オペラ歌手 紅白対抗歌合戦」が定着するかどうか、大いに楽しみではある。(蔵 志津久)

                                    ◇

<第1回「オペラ歌手 紅白対抗歌合戦~声魂真剣勝負~」>

ソプラノ:腰越満美、佐藤美枝子、澤畑恵美、砂川涼子、並河寿美、半田美和子
メゾ・ソプラノ:永井和子
二重唱:安井陽子、小林由佳
四重唱:加藤早紀、宍戸茉莉衣、辰巳真理恵、藤原唯
ソプラニスタ:岡本知高
テノール:樋口達哉、水口聡、村上敏明
バリトン:黒田博、須藤慎吾、牧野正人
二重唱:小原啓楼、成田博之
四重唱:La Dill(彌勒忠史、岩田健志、坂下忠弘、金山京介)

指揮:垣内悠希、三ツ橋敬子

管弦楽:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

司会:本田聖嗣

会場:サントリーホール

日時:2016年9月6日(火)  午後6時30分

コメント/トラックバック投稿 »



2016年5月25日

☆神奈川フィルと名古屋フィルの二つのオーケストラ総勢134人によって蘇るショスタコーヴィチ:交響曲第7番「レニングラード」


 kanaphill_special_omote ol

 神奈川フィルハーモニー管弦楽団と名古屋フィルハーモニー交響楽団の二つのオーケストラの総勢134人による演奏会が、6月24日(土)、神奈川フィル常任指揮者であり、今注目の川瀬賢太郎の指揮で、ショスタコーヴィチ:交響曲第7番「レニングラード」などが演奏される。「レニングラード」は、ショスタコーヴィチが3か月の間に80万人が犠牲者となったといわれる“レニングラード攻防戦”のさなかに書かれた交響曲で、今回のような大編成のオーケストラによって演奏されると、その効果は倍増され、今から各方面の注目を集めている。

 ショスタコーヴィチ:交響曲第7番は、第二次世界大戦のさなか、ナチス・ドイツ軍に包囲(レニングラード包囲戦)されたレニングラード(現在のサンクトペテルブルク)市内で作曲された。ショスタコーヴィチは、「プラウダ」紙上に「私は自分の第七交響曲を我々のファシズムに対する戦いと我々の宿命的勝利、そして我が故郷レニングラードに捧げる」と書いたことから「レニングラード」という通称が付けられている。現在、ショスタコーヴィチはこの作品において、ナチス・ドイツのみならずソ連政府の暴力をも告発しているのだ、という説が有力になりつつある。そのため、最近では再評価の動きが高まりつつある。

 今回、二つのオーケストラの総勢134人の大編成のオーケストラにより「レニングラード」が演奏されることによって、“レニングラード攻防戦”の最中にあって作曲した、ショスタコーヴィチが真に訴えたかったことが、鮮明に再現されることが予想される。ちなみに当日のオーケストラの楽器編成は次の通り。ピッコロ1、フルート2(アルトフルート1)、オーボエ2、イングリッシュホルン1、クラリネット2、Es(高音)クラリネット1、バスクラリネット1、ファゴット2、コントラファゴット1、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ1、(第2グループまたはバンダ)ホルン4、ティンパニー、トライアングル、タンブリン、小太鼓、シンバル、大太鼓、タムタム、シロフォン(木琴)、ハープ2、ピアノ、弦楽5部。

 指揮の川瀬賢太郎(1984年生まれ)は、東京都出身。2006年、若手指揮者の登竜門として知られる「東京国際音楽コンクール」で1位なしの2位(最高位)に入賞し、一躍注目を浴びる。2007年、東京音楽大学音楽学部音楽学科作曲指揮専攻(指揮)を卒業。各地のオーケストラより招きを受け、2008年と2011年にイル・ド・フランス国立オーケストラと共演するなど、海外での活動も数多い。現在、名古屋フィルハーモニー交響楽団指揮者、神奈川フィルハーモニー管弦楽団常任指揮者などを務めている。現在、名古屋フィルハーモニー交響楽団指揮者、2014年より神奈川フィルハーモニー管弦楽団常任指揮者に就任。2015年細川俊夫作曲オペラ「リアの物語」を広島にて指揮、喝采を浴びるなど、細川俊夫の作品の指揮者としても知られる。2015年「渡邉暁雄音楽基金」音楽賞、第64回神奈川文化賞未来賞、2016年第14回齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞。さらに2016年第26回出光音楽賞を受賞した。(蔵 志津久)

【特別演奏会 名古屋フィル+神奈川フィル スペシャル・ジョイント・コンサート】

モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番
ショスタコーヴィチ:交響曲第7番「レニングラード」

ピアノ:菊池洋子

指揮:川瀬賢太郎(神奈川フィル常任指揮者)

管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽団+名古屋フィルハーモニー交響楽団

会場:横浜みなとみらいホール

日時:2016年6月25日(土曜日)  午後2時

コメント/トラックバック投稿 »



2016年5月11日

☆日本人として初めてグラミー賞にノミネートされた冨田勲が遺した一枚のLPレコード 


 DSCN3585_01

 作曲家でシンセサイザー奏者の冨田 勲が5月5日に亡くなった。

 冨田 勲は、慶應義塾大学文学部在学中に作曲家として活動を始め、NHKや民放の音楽を担当した。初期のころには、作曲家として活動する一方、新たに出現してきた電子機器と古典的な楽器とを融合させるなど、様々な音楽の可能性を追求し始めた。

 1969年にシンセサイザーと出会ったことが、冨田 勲のその後の音楽活動を大きく変えるこにとなる。つまり、シンセサイザーを使い、古典的名曲を現代的な解釈を付け加えて発表するという活動が中心となって行くわけである。

 この結果、1974年には「月の光 – ドビッシーによるメルヘンの世界」が、日本人として初めてグラミー賞にノミネートされると同時に、全米レコード販売者協会の1974年最優秀クラシカル・レコードにも選ばれた。さらに、次作の「展覧会の絵」はビルボード・キャッシュボックスの全米クラシックチャートの第1位を獲得し、1975年全米レコード販売者協会の最優秀レコードを2年連続受賞することになる。

 さらに、1975年度の日本レコード大賞・企画賞を受賞。次作の「火の鳥」はビルボード全米クラシックチャート第5位、さらにその次作の「惑星」もビルボード全米クラシック部門で第1位にランキングされた。

 「バミューダ・トライアングル」では、発売翌年のグラミー賞で 2回目、1983年のアルバム「大峡谷」では3回目のグラミー賞のノミネートを受けた。以降「バッハ・ファンタジー」(1996年)まで、冨田 勳のアルバムはいずれも世界的なヒットを記録し、「イサオ・トミタ」は世界的名声を得ることになる。

 ここに冨田 勲の一枚のLPレコード「VOYAGE(ヴォヤージュ:航海)」がある。これは、ファースト・アルバム「月の光」に始まり、「展覧会の絵」「火の鳥」「惑星」「宇宙幻想」」「バーミューダ・トライアングル」「ダフニスとクロエ」と立て続けに世界的規模でのグレイテスト・ヒットを放ってきた冨田 勲の偉大な軌跡を鳥瞰するために特に編まれたアルバムなのだ。

 それまでのアルバムから収録してあるLPレコードなのではあるが、単なる曲の寄せ集めではなく、一つの物語を構成してある。それが「VOYAGE(ヴォヤージュ:航海)」という意味なのだ。出発点は、我らの母なる地球であり、行先は宇宙の彼方からメルヘンの世界にまで及ぶ、壮大極まりない規模のコースである。       合掌 (蔵 志津久)    

【A面】

1.出発(冨田)
2.ソラリスの海(バッハ~冨田)⑤
3.パシフィック231(オネゲル)⑤
4.亜麻色の髪の乙女(ドビュッシー)①
5.バーバ・ヤーガの小屋(ムソルギスキー:「展覧会の絵」より)②
6.卵のからをつけたヒナの踊り(ムソルギスキー:「展覧会の絵」より)②
7.シベリアのツングースに激突したことのあるまばゆく光る円筒形の物体(プロコフィエフ:交響曲第6番第1楽章~冨田)
8.答えのない質問(アイヴス)⑤

【B面】

1.夢(ドビュッシー)①
2.パスピエ(ドビュッシー)①
3.沈める寺(ドビュッシー)①
4.ボレロ(ラヴェル)⑦
5.フィナーレ(ストラヴィンスキー:「火の鳥」より)③
6.シンコペーテッド・オクロック(アンダーソン~梅垣~冨田)

<収録アルバム名>

①「月の光」
②「展覧会の絵」
③「火の鳥」
④「惑星」
⑤「宇宙幻想」
⑥「バーミューダ・トライアングル」
⑦「ダフニスとクロエ」

シンセサイザー:冨田 勲

LP:RVC RCL―8044

コメント/トラックバック投稿 »



2016年3月27日

◇東日本大震災を機に結成された東北の青年・子供オーケストラが相次ぎ成果


 ganbaro-tohoku-r-s-2

 東日本大震災を機に結成された東北の青年・子供オーケストラが大きな成果を出し始めている。「東北ユースオーケストラ」は、3月26日、坂本龍一音楽監督の下、東京で第1回演奏会を開催した。また、「福島青年管弦楽団」は、4月3日に米国ボストンでボストン交響楽団と共演する。さらに「相馬子どもオーケストラ」は、ドイツのベルリンにて、ベルリン・フィルの有志メンバーをはじめとするドイツの音楽家たちと、3月11日(ドイツ時間3月10日)ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」などを共演した。

 「東北ユースオーケストラ」は、2013年9月~10月、宮城県松島町において開催された音楽祭「Lucerne Festival(ルツェルン音楽祭) ARK NOVA 松島 2013」をきっかけに企画・編成されたオーケストラ。楽団員は東日本大震災の被災三県(岩手県・宮城県・福島県)を中心とした小学校・中学校・高等学校の子どもたちが、プログラム(演奏)ごとに楽団編成を変えながら活動している。同楽団は、子どもたちの活力が、周囲の大人や地域全体、そして東北全体に活力を与え、あたらしい未来をつくりだすことを目指し、震災を乗り越えて生まれた強くて美しい音楽を、東北から全国、そして世界へ届けて行くことが目標。音楽監督には、坂本龍一氏が就任。

 「福島青年管弦楽団」は、プロ音楽家でつくる英国の慈善団体「キーズ・オブ・チェンジ」(パノス・カラン代表)の呼び掛けで2014年に結成された。震災から5カ月後の11年8月、クラシック音楽を通じた社会貢献に取り組んでいたカラン氏の慰問演奏が切っ掛けであった。主に福島市内在住の中、高、大学生48人が団員で、演奏を通して東日本大震災と東京電力福島第一原発事故からの復興を目指す県民の元気な姿や思いを伝えている。これまで「キーズ・オブ・チェンジ」の援助で、ロンドンや東京でも演奏した。メンバーは、中学生から大学生までの46人。現在、市内の中学校などで、平日の午後9時過ぎまで練習をしているという。

 「エル・システマジャパン」は、東日本大震災で被災した子どもたちが音楽での経験を通して、自信や尊厳を回復し、自分の人生を切り開いていく「生きる力」を育むことを目的に2012年3月に設立された。「エル・システマ」は、1975年に南米ベネズエラで始まり、現在では60以上の国・地域で活動が行われている音楽教育プログラム。希望するどの子も家庭の事情にかかわりなく、楽器を奏で、歌うことができること、そして、皆で参加するオーケストラの形で学んでいくことを重視(「相馬子どもオーケストラ&コーラス」)。当初、福島県相馬市で約30人から始まった週末音楽教室も、今では150人が参加するまでに発展している。2014年5月には、2カ所目となる岩手県大槌町での活動が開始された。(蔵 志津久)

コメント/トラックバック投稿 »



2016年3月08日

◇アイノラ交響楽団、1回の演奏会でシベリウスの交響曲第5番の初稿版と最終稿版を演奏


アイノラ交響楽団

 アイノラ交響楽団は、第13回定期演奏会において、ベリウスの遺族より許可の下、シベリウスの交響曲第5番の1915年の初稿と1919年の最終稿を、1回の演奏会で演奏する。通常、シベリウスの交響曲第5番は、最終稿が演奏されるが、同じ演奏会で初稿も演奏されることにより、二つの版の聴き比べが可能となる、貴重な機会といえる。

 アイノラ交響楽団は、シベリウスをこよなく愛するアマチュア演奏家により、2000年12月に創設され、以後、1年に1回、定期演奏会を開催して、シベリウスの作品を演奏している。因みに、アイノラ交響楽団のアイノラとは、フィンランド語で「アイノのいる場所」という意味で、シベリウスは最愛の夫人「アイノ」の名にちなみ、ヘルシンキ郊外のヤルヴェンパーの自邸をアイノラと呼び、そこで多くの傑作を創り上げた。

 シベリウスの交響曲第5番は、1915年、シベリウスの50歳の誕生日に合わせて作曲された。少し急いでつくられたためか、初演の後、直ぐに改訂稿に着手し、翌1916年に完成。初稿では第1楽章と第2楽章に分かれていたものが、改訂稿では一つの楽章にまとめられている。そして、1919年に最終稿が完成する。

 通常、シベリウスの交響曲第5番は、この最終稿版が演奏されるが、2015年のシベリウス生誕150年を機に、初稿版が演奏される機会も多くはなってきている。しかし、1回の演奏会で、初稿版と最終稿版とが同時に演奏される機会は極めて稀。指揮は、日本シベリウス協会会長で、愛知室内オーケストラ常任指揮者を務める、アイノラ交響楽団正指揮者の新田ユリ。

 新田ユリは、自著の「ポポヨラの調べ~指揮者がいざなう北欧音楽の森~」(五月書房刊)の中で、シベリウスの交響曲第5番を次のように紹介している。「7曲の交響曲の中で比較的構成が明確で重厚な趣があるとされる『第5番』。しかし楽譜を見てみると白い部分が多い。キャンパスの使い方が上手な作曲家、シベリウス。その音の遠近法は、音符を記さずとも聞こえることがたくさんあることを教えてくれる」(蔵 志津久)

                               ◇

                      <アイノラ交響楽団 第13回定期演奏会>

シベリウス:春の歌 作品16(1894年/初稿)
        交響曲第5番変ホ長調 作品82(1915年/初稿)
        吟遊詩人 作品64
        交響曲第5番変ホ長調 作品82(1919年/最終稿)

指揮:新田ユリ

管弦楽:アイノラ交響楽団

会場:杉並公会堂大ホール(東京都杉並区)

日時:2016年4月10日(日) 14:00開演(13:15開場)

コメント/トラックバック投稿 »



2016年2月24日

◇国内トップ奏者によるスーパーオーケストラ「マロオケ」の東京上陸に注目!


 マロオケ

 NHK交響楽団の人気コンサートマスター、“マロ”こと篠崎史紀氏が主宰する、国内トップ奏者によるスーパーオーケストラ「Meister Art Romantiker Orchester=MARO(通称:マロオケ)」が東京で初公演を開催する。同オーケストラは、指揮者を置かずに、全員男性奏者により、極上のアンサンブルを聴かせるのが特徴。

 「マロオケ」は、2009年にマロの出身地である北九州音楽祭でデビューを果たし、以後、大分や熊本で聴衆を魅了してきた。同オーケストラは、国内オーケストラのコンサートマスター8名をはじめとして、国内オーケストラの首席級が居並ぶという超豪華メンバー。

 モットーは「音楽で真剣に遊ぼう」。このためメンバーは気の合う仲間の集まりで、肩書は関係ないという。レパートリーの基本は古典派。当時は、指揮者を置かずに、室内楽的な形態をとっており、「マロオケ」もこの精神に立ち返り、“巨大な室内楽”という主旨に拘る。

 これまで「マロオケ」は、九州に限って演奏活動を行ってきたが、2016年5月5日、サントリーホールで東京に上陸を果たす。オーケストラというと、プロオーケストラとアマチュアオーケストラに二分されるが、「マロオケ」はプロオーケストラには違いはないが、その発想の奇抜さで、日本で新たなオーケストラ文化を築こうとするもの。

 当日は、何とモーツアルトの交響曲を6曲(交響曲第25番/第36番「リンツ」/第38番「プラハ」/第39番/第40番/第41番)を一挙に演奏するという型破りなもの。「マロオケ」のこのような意欲的な試みは、既存のオーケストラでは、なかなか実現できない。今後、「マロオケ」現象が日本中に広がるのか、大いに興味が引かれるところではある。(蔵 志津久)

コメント/トラックバック投稿 »